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どうする地方

産科医不足

産声が激務の支え…高知・安芸


 日本産科婦人科学会が昨年実施した調査で分娩取り扱い施設の常勤医師数が全国最下位、分娩施設数(助産所を含む)は下から3番目だった高知県。その中でも産科医不足の深刻な地域が、安芸市を中心とした東部の安芸地区(安芸保健医療圏)だ。約1130平方キロ、大阪市のほぼ5倍に及ぶ広大な地域の中で出産を扱う施設は同市内の県立安芸病院だけ。ここで篠原康一医長(39)は2004年春から、同科1年目の医師と2人で産婦人科医療を支え続けてきた。

 勤務ダイヤは厳しい。平日は午前8時半から午後5時過ぎまで外来患者約40人、病棟患者約10人の診察や、週2回の手術を担当。その後もカルテ記入などの雑用で同10時ごろまでの残業が多い。帰宅して一息ついても、救急患者治療のための緊急呼び出しはしばしば。土、日曜日の午前中は病棟回診や不妊外来で出勤、夜間当番を週に5〜6回は担当する。年末年始も休みはなく、秋に3日間解放されるのが唯一の長期休暇だ。

 同病院での出産は月に十数件。陣痛促進剤などを使わない自然分娩を原則にしており、深夜や未明の分娩も多い。助産師とのチームワークでこなすが、帝王切開などリスクのあるケースもあり処置に追われる。「1日平均14時間は働いているかな。赴任以来、ぐっすり眠れた記憶がない。けれど、もう慣れました」と苦笑いした。


入院患者を回診する篠原医師(右)=高知県安芸市の県立安芸病院で

 激務の支えは誕生の瞬間。「赤ちゃんの元気な産声を聞き、母親のほっとした笑顔を見ると疲れが吹っ飛びます。家族の一生の記憶に残る出産という大仕事を支援する職業に誇りを感じる」と話す。

 しかし、篠原医師が過労で倒れたら、同病院産婦人科は休診に追い込まれかねない。

 一方、安芸地区に住む妊婦の不安も大きい。同病院から約60キロ離れ、徳島県境に近い東洋町に住む主婦、大黒里絵さんは9月末に同病院で長男を出産した。「安芸病院までは車で1時間半かかり、臨月に入ってからは、救急車かマイカーの中で産むことになるかもと毎日びくびくしていた。産気づいてすぐ、夫に送ってもらえて事なきを得ました。もう1人産むつもりですが、次はどうなるかと今から心配。安心して産める場を何とか確保してほしい」と訴える。

 厚生労働省は産科医不足を緩和する対策の一つとして、各地域の拠点病院に医師を集め、勤務環境の改善と医療の安全性を確保する集約化・重点化計画を打ち出している。しかし、産婦人科医が少ない地方では、計画の推進が極めて難しい。家保英隆・高知県医療薬務課長は「高知市を中心とした地域以外では、集約化せよと言われても、それに見合う医師がもともといないのだから無理。現状維持が精いっぱい」と打ち明ける。

2006年12月14日  読売新聞)
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