◎防衛利権の解体 国営会社で装備調達も一策
参院外交防衛委員会での証人喚問で、守屋武昌前防衛事務次官と防衛専門商社の癒着ぶ
りを示す事実がまた明らかになった。宴席で同席したという政治家の名前も出てきた。スケールは小さいが、かつてのロッキード事件を思い出させる政官業の取り合わせである。
防衛省が調達したり、発注する装備や施設は巨額なものになりがちで、よほどの専門家
でないと性能比較が難しい。そこに「防衛利権」が生まれる素地があり、大正三年のシーメンス事件以降、贈収賄事件が繰り返されてきた。
守屋前事務次官がゴルフ接待の見返りに、防衛専門商社にどのような便宜をはかったの
かはまだ定かではないが、業者が防衛省高官に接触する目的は今も昔も一つしかない。特に日本は、外国製の防衛装備を国際相場よりかなり高く買う傾向にあり、こうしたことも利権を生む温床になっているのだろう。
かつての「防衛省のドン」の証人喚問を機に、防衛利権の解体に本気で乗り出す必要が
ある。たとえば、防衛省から調達部門のみを切り離し、国営会社を設立してはどうか。民間並みに商社機能を持たせて、兵器の性能比較や価格交渉、専門家からの意見聴取などを一括して行い、選考から決定に至るプロセスを透明化する。バランスシートの公開を義務付け、予算の効率活用を至上命題にするのである。
調達部門を独立させる案は決して奇抜なものではなく、たとえば軍事評論家の清谷信一
さんは、官業癒着の構造を解体し、コスト意識を徹底させる最良の方法として、やはり調達部門の国営企業化を訴えている。防衛装備といっても、国防上秘密にしておかねばならぬ装備は、それほど多いわけではないのに、随意契約がむやみに多く、装備の選考、価格交渉などのプロセスが不透明な事例が多すぎる。
「日本仕様」にするという理由で、国際相場とかけ離れた高額な装備を買う是非につい
ても論議の余地がある。国内でのライセンス生産といっても、技術習得は名ばかりで、単なる組み立ての一工程を請け負っているだけの例もあるという。装備の質を落とさず、防衛予算を合理的に使う方法を考えなくてはならない。
◎神谷内IC前進へ 用地取得の教訓にしたい
金沢外環状道路山側幹線(山側環状)神谷内インターチェンジ(IC)のアクセス道路
は、最後の地権者が家屋移転を了承し、IC開通へ向け、ようやく工事が前進する見通しとなったが、用地交渉に費やした十六年の歳月を思えば、なぜここまで長期化したかという疑問がやはりぬぐえない。「用地取得で工事の大半が終わる」と言われる公共工事の課題をあらためて考えさせられる。
山側環状のような大型事業では一部の工事が遅れると、すでに投入した予算が十分に生
かされず、用地取得に応じた多くの住民への責任を果たせないばかりか、行政不信さえ招きかねない。県内では北陸新幹線金沢以西でも今後、用地取得が本格化するが、行政側には今回のケースを教訓に、土地収用手続きの適切な活用も含め、用地取得を円滑に進める一層の努力を望みたい。
一九八五年に事業決定された神谷内ICのアクセス道路は用地取得率が99%まで進み
、全長約二・四キロのうち二キロが完成したが、ルート上の古民家一軒だけが合意に至らず、昨年四月の山側環状全線開通後も同ICは供用できなかった。
国土交通省金沢河川国道事務所は九一年からこの所有者と交渉を進めてきたが、折り合
えないまま二〇〇二年には古民家が国登録有形文化財となり、同事務所が移設のあり方などを検討した末、家屋移転の合意にこぎつけた。昨年夏には早期供用を求めて周辺住民約一万五千人分の署名も出され、すでに山側環状が開通していることも考えれば、土地収用手続きに踏み込んでもおかしくない状況だったと言える。
土地収用法に伴う措置は「強権発動」という印象を持たれがちだが、そうしたイメージ
が強いのは情報公開も不十分な時代に粗雑な運用を進めた結果でもあろう。公共事業を実施するうえで個人の財産権と公益との調整を図ることは極めて重要であり、説明を尽くし、必要な手続きを踏めば、土地収用をためらうべきではない。
何より大事なのは用地交渉の難航を事前に防ぐことである。国や自治体は、事業の早い
段階から住民の合意形成を図れるよう、用地取得体制を強化してもらいたい。