あの女性は投票に行ったのだろうか―。
一カ月前に行われた総社市長選を思い返す。候補者が市内の会社の朝礼に訪れ、社員らに握手を求めたが、二十代の女性社員に拒否された。「私は政治を信用していない。だから握手は結構です」と。政治不信の根深さを如実に物語るエピソードだ。
前市長の入札業者選定介入問題に端を発し、リコール(解職請求)運動や市議会百条委設置などで混乱した総社市。一連の騒動を通じて、指名審査委員会が機能不全に陥っていたことなど行政への信頼を損ねる事実が相次ぎ浮上した。
だが、こうした問題は総社市ばかりではない。国や自治体への信頼は、回復するどころか、不信が増幅しているようだ。相次ぐ不祥事や情報公開の遅れなどの要因が重なり合った結果だが、一番大きいのは、住民感覚とかけ離れた論理がいまだに役所の中で通用していることにあると思う。チェックする側の議会も同じで、機能を十分果たしているとは言いがたい。
それは政治不信に陥った有権者の足を投票所から遠ざけ、結果的に既得権益を求めるグループの意見がますます反映、さらなる不信を招く悪循環に陥っている。現状打開には、一層の情報公開と市民との対話を進めるしかないだろう。
総社市長選はわずかながら投票率が前回を上回った。信頼回復を願う有権者の思いが反映されたと受け取りたい。来年は担当管内で倉敷市長選と早島町長選が控えている。不信を払拭(ふっしょく)する論戦が展開されることを期待している。
(倉敷支社・高見幸義)