「森は海の恋人」が合言葉の運動がある。宮城県でカキを養殖する畠山重篤さんが提唱した植樹活動だ。
海の汚染が進み、カキ養殖が危機にひんした際、元凶は森の荒廃にあると気付いた。漁業者たちは山で木を植え始め、植樹祭には頂上に大漁旗がはためいた。珍しい光景がマスコミに取り上げられ、広く知られるようになった。
森と海が密接な関係にあると実感したのは、畠山さんがカキ養殖の盛んなフランスのロワール川河口の養殖場を視察し、川のきれいさ、上流の森の豊かさに驚いたからである。調べると、森の養分が川を下り海に栄養を与えていた。
植樹に取り組むキャッチフレーズは、歌人熊谷龍子さんの「森は海を海は森を恋いながら悠久よりの愛紡ぎゆく」から生まれた。一連の経緯は、畠山さん著「森は海の恋人」に詳しい。
昨日の本紙に大野晃・長野大教授による「限界集落」の寄稿があった。六十五歳以上の高齢者が集落人口の半数以上を占め、社会的共同生活の維持が困難な集落を大野教授は限界集落と呼ぶ。こうした山村は人手が足りず、山は荒廃の一途だ。再生には上流域に対する下流域の都市住民の支援が重要と指摘する。
日本は経済成長の過程で新幹線や高速道など横の連携を強化したのに対し、川筋の縦の意識は乏しくなった。「森は海の恋人」運動は、地域再生の鍵でもあろう。