過重労働による医師の過労死が深刻な問題となる中、過労死弁護団全国連絡会議(代表幹事・松丸正弁護士)は11月14日夜、東京都千代田区の中央大学駿河台記念館で「なくそう!医師の過労死」と題したシンポジウムを開催した。小児科医や産科医また弁護士らが労働基準法“違反”の医師の過酷な勤務実態を告発。過労死した医師の遺族らも医師の労働の在り方について思いを語った。約130人の参加者は、「医師のためだけでなく、国民が安心で安全な医療を受けられるためにも医療現場の環境改善が不可欠」と確認した。 過酷な勤務状況による勤務医の過労死・過労自殺が深刻な社会問題となっている。同連絡会議の集約では、過労死・過労自殺をめぐる労災認定や労災補償の事例はこれまで全国で22件。そのうち7件が今年に集中している。
厚生労働省の「医師需給に係る医師の勤務状況調査」によると、病院などの医療機関の勤務医の1週間当たりの勤務時間は平均で63.3時間。同連絡会議は、「この時間は、厚労省の『脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準』において業務と発症との強い関連性を示す、1カ月当たり約100時間の時間外労働に相当する」と指摘。医師の過労死が今後も起こり得る現状の改善を目指し、シンポジウムを開いた。
第1部では、専門家4人がそれぞれの立場から講演。
昭和大学の主任教授で産婦人科医の岡井崇氏は、同科の医師の92.5%が当直翌日の勤務を行っている調査結果を示すなど、医師不足による同科の過酷な勤務実態を報告。「過重労働が“医療の質の低下”“事故の発生”“訴訟”“医師不足”となる悪循環を引き起こしている」と話し、被害者を補償して訴訟を抑える「無過失補償制度」の導入を求めた。
ちばこどもクリニックの院長・千葉康之氏は、10カ所の病院で小児科の勤務医を務めた経験から、医師の宿日直とその問題点に言及。厚労省が宿日直を「ほとんど労働する必要のない勤務」などと規定していることに対して、「実際は通常勤務より何倍も負担がかかる」と指摘し、「40時間の連続勤務が常態化している」と打ち明けた。千葉氏は、「働いたら休むという当たり前のことがなぜ許されないのか」と問題提起。「患者の安全と医師の健康のために労働環境の改善が不可欠」と訴えた。
医療問題に取り組むジャーナリストの塚田真紀子氏は、「医師が過酷な勤務を“辛い”と言えない古い考えをなくすべき」と発言。また、患者の視点で、「軽症であっても容易に受診してしまう国民の意識も変えていく必要がある」と呼びかけた。
そして、医師の過労死をめぐる複数の裁判を担当する松丸正氏は、過重労働を許し、労災認定もなされにくい現状について解説した。背景には、勤務医の労働時間を把握するシステムがそもそもないこと▽労働基準法第36条に基づく時間外及び休日労働に関する協定(36協定)が適切に届けられてないこと▽サービス残業が常態化し勤務に歯止めがかからないこと▽宿日直に対する認識が現場と裁判所で食い違っていること―の4つがあると強調。松丸氏は、「労基法の重要性を訴え続け、勤務医の労働環境の改善に向けた取り組みを行っていきたい」と話した。
遺族らも環境改善訴え
第2部では過重労働によって命を断たれた医師の遺族が意見を述べた。
1995年に過労死し、2年かかって労災認定された山梨県の産婦人科医の妻は、「医療現場は、改善に向かうどころかさらにひどくなっている」と指摘。「医師の人間らしい生活を保障していくことが、患者さんの安全を守ることにつながる。いろいろなところで声を上げていき、医師をはじめ労働者の労働環境を改善していきたい」と話した。
また、99年に過労自殺した小児科医の妻・中原のり子さんも発言。中原さんは今年の行政裁判で勝訴し、現在勤務先を相手取った民事裁判の控訴審で係争している。
この日、同連絡会議とともに厚労省に対して申し入れを行い、その席で小児科医の労働環境を改善する要請書とそれに同意する22,314筆に上る署名を厚労相あてに提出したことを報告。これに加え、医師の時間外勤務の適正な評価とそれに基づく就労環境・法制度の改善▽医師の供給システム側からのアプローチ、特に「地域で医師を育てる取り組み」の重要視▽受療者の行動変容、とくに時間外のコンビニ受診の改善―の3点も要求。中原さんは「一人でも多くの国民の声を発信し、過労死や過労自殺が起こらないような施策を行政に求めていきたい」として、今後の活動への意欲を示した。
更新:2007/11/15 キャリアブレイン
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