◇経営悪化主要因…(1)診療報酬の引き下げ(2)医師不足で収入減少
赤字経営の公立病院が、全国の自治体財政を圧迫している。病院経営が悪化する背景には、06年4月の診療報酬引き下げに加え、04年に導入された新臨床研修制度で研修医が大都市部に流出、医師不足を招いたのも大きな原因と指摘されている。本県では、佐野市民病院がその典型例。大学派遣の医師が大量に引き揚げ、02年度末に21人いた常勤医が現在は4人にまで激減。これに伴い、医業収益が02年度の約34億円から06年度の約17億円まで半減した。06年度、同病院への市による赤字補てんは過去最大の約10億円に達し、経営立て直しが急務になっている。【戸上文恵】
◇03年に経営悪化、急増する補助金
新しい臨床研修制度が、なぜ影響したのか。制度本来の狙いは、幅広く診療できる医師養成を目指すもの。しかし、研修医はプログラムが充実した、都市部の大規模な一般病院や大学病院を研修先として選ぶようになった。結果、地方の大学病院が地元の派遣先から、医師を引き揚げる現象が発生した。
佐野市民病院の場合、制度導入を見越して、03年から引き揚げが起こった。医師不足のため患者を受け入れられなくなり、経営内容が悪化。市の運営費補助金も02年度の9500万円から、翌03年度には8億円に急増した。医業収益に直結する病床利用率も02年度は76・7%だったが、06年度は47・7%に落ち込んだ。
◇51人が一斉退職、外来一時休診に
さらに06年度末、前院長を含む常勤医師8人全員と非常勤医師43人が退職し、医師不足が顕在化した。佐野市の交渉の末、今年4月から、福光正行・新院長ら常勤医2人、非常勤医23人が就任したが、眼科、婦人科、整形外科の外来診療の一時休診に追い込まれた。現在は常勤医4人、非常勤医55人と態勢を立て直し、外来も再開している。
同病院の中里博行・事務部長は「何とかして病院としての対面を保っている」と打ち明ける。同病院は今も、常勤医の確保に奔走しているが、車で東京から片道2時間かかり、敬遠されるという。中里事務部長は「一つの病院に患者が集中すれば、そこにいる医者が疲労し『こんな病院は嫌だ』と悪循環を生む。地域全体で役割分担をしていかないと」と訴える。
◇市民有志が存続求めて署名活動
同病院をめぐっては、今年2月、市民有志18人が「市民病院を存続させる会」(小林正義、町田順一両代表)を結成。早期の医師確保と病院存続を求め、これまでに1万5000人超の署名を集めた。同事務局の岩月秀樹さんは「赤字の病院を残してもという声も聞くが、いざ病気になった時には設備の整った病院が必要」と訴える。同会は今月8日、福田富一知事あてに署名を提出した。
◇経営改善へ取り組みも
もちろん、公立病院側の経営改善も続いている。県医事厚生課によると、01年4月、「病院事業経営改善推進委員会」を庁内に設置。岡本台病院▽がんセンター▽とちぎリハビリテーションセンターの3県立病院に経費節減を促した。佐野市民病院も来年4月を目標に、指定管理者制度への移行により、立て直しを目指す。
また、県は今年5月、有識者や医療関係者による「県立病院あり方検討委員会」(委員12人)を設置した。経営改善の取り組みなどについて、来年2月に提言書をまとめる予定だ。医事厚生課の宮沢昌彦・課長補佐は「がんや精神医療など、公立病院が政策的に担うべき役割を明確化しながら、具体的な経営改善を図ることが健全化のポイントになる」と話している。
毎日新聞 2007年11月15日