◆ユニバーサル食器って。
◇楽しい食事、みんなに--焼き物産地で商品化、すくいやすく取っ手も大きく
年齢や障害に関係なくだれもが利用しやすいよう設計されたユニバーサル食器が、ここ数年、焼き物の産地を中心に相次いで商品化されている。
「すべての人のためのデザイン」を意味するユニバーサルデザインの考えは80年代に米国で提唱されたのが始まり。日本では2000年前後から急速に普及したが、80年代初頭に有田焼の「すくい易(やす)い食器」を考案し、ユニバーサル食器の開発ではさきがけ的な存在が「でく工房」(東京都昭島市)だ。
74年、長崎県佐世保市出身の竹野広行さんら若者3人が、主に脳性マヒなど障害のある子どもの座るイス(座位保持装置)を製作する工房としてスタート。一人一人に合ったイスを作るため、寸法を測りに子どもたちの家に出入りするうち食器の開発を思いついた。
当時、身障者用の食器は軽いプラスチック製のものが多く、楽しく食事をするイメージとはかけ離れていた。厚生省(当時)の研究費を受け、作業療法士らの協力を得て2年かけて鉢、皿、カップなど計6種類の食器を83年に完成させた。
皿や鉢の形は四角が基本。角は丸みを持たせて内側に返しを作っているほか、角と縁に傾斜がつけてあるため、食べ物を角に寄せればスプーンで簡単にすくえるようにした。カップ類も握りやすいよう取っ手を大きくするなど、工夫が凝らされている。
九州出身という縁で佐賀県・有田焼のメーカー「しん窯」の協力を得て焼き上げられ、白地に青い水草や七宝などの文様が入る。88年にグッドデザイン賞、99年にはロングライフデザイン賞を受賞。特に宣伝はしてこなかったが、口コミで広がり、主に養護学校や高齢者施設で使われている。
竹野さんが4年前に53歳で亡くなった後は、妻の節子さん(50)が代わって工房を運営してきた。今年、「白い食器にご飯が盛られていると、ごはんと食器の区別がつかない」という白内障の利用者からの声を受け、黒い小鉢を商品化した。
幼児のいる家庭でも好評だ。東京都武蔵村山市の主婦、藤古千香(ふじふるちか)さん(40)は子どもの出産祝いに「でく工房」の小鉢とカップをもらった。長男の雅史ちゃん(1歳11カ月)は、今夏から自らカップを握り、小鉢でごはんを食べている。「ごはんつぶがへりについてもスプーンですくいやすく、全部食べられる」と話す。
節子さんは「年をとっても障害があっても自分で食べられることが大事。楽しい食事にしようという、夫の遺志を継いでいきたい」と話す。【有田浩子】
■「笠間焼」盛岡市で来月展示会
笠間焼の産地、茨城県笠間市では県窯業指導所と陶芸家が協力し、00年からユニバーサルデザインのカップや皿などを商品化してきた。12月13~24日には盛岡市の百貨店「かわとく壱番館キューブ2」でユニバーサル食器の展示会を開催する予定。「障害者ではないので必要ない、という誤解をどう払しょくするかがカギ」と窯業指導所の担当者は話す。美濃焼の産地、岐阜県多治見市や丹波焼の産地の兵庫県篠山市でも業界組合などが生産している。
問い合わせ先は以下の通り。
★でく工房
ホームページ(http://www.deku-kobo.com/)からネットで注文か、電話042・542・7040(月~金曜午前10時~午後4時)、ファクス042・542・7078
★笠間焼
NPO法人「活(い)きる」のホームページ(http://www7a.biglobe.ne.jp/~npoikiru/)参照(ネットで購入可能)
★美濃焼
多治見陶磁器卸商業協同組合のホームページ(http://www.japan-net.ne.jp/~tatosho/)を参照。電話0572・25・5588、ファクス0572・25・3888
★丹波焼
丹波立杭陶磁器協同組合電話079・597・2034、ファクス079・597・3232
毎日新聞 2007年11月15日 東京朝刊