◇新政権・医師不足、診療側に追い風--「診療所は黒字」支払い側は反論
08年度の診療報酬改定率を巡る攻防が14日、来月中の政府・与党による決着に向けて厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)で始まった。構造改革路線の小泉政権下では事実上削減幅が争点だったが、地域医療の疲弊に加え、福田政権誕生で引き上げを求める診療側に追い風は吹いている。それでも、経済界や財務省は引き下げを求め、譲らない構えだ。
14日の中医協は、会場が一瞬静まり返った。中立の立場の土田武史会長(早大教授)が、「プラス改定が正常」と、異例の発言をしたためだ。2年に1度の診療報酬改定は、06年度も3・16%減で決着するなど3回連続のマイナス改定。ただ今回は医師不足など医療の危機的状況に、土田会長も揺れたとみられる。厚労省も同日、「06~07年度は公務員賃金、物価とも累計0・7%増」との資料を配布し、日本医師会は5・7%増を主張した。与党内も「今回の減額は無理」との空気が大勢を占める。
支払い側の健保組合や経済界の代表は「診療所の収支は経年的に黒字」とけん制。「診療報酬で医師不足は解消できない」と反論した。14日は経済財政諮問会議でも民間議員が効率的配分を迫った。既に5日には財務相の諮問機関、財政制度等審議会が引き下げ方針で一致している。
診療報酬は、医師の技術料など「本体」と「薬価」に大別される。08年度も薬価は1%程度削減する方向が固まっており、焦点は本体の動向だ。
保険料負担に響く支払い側だけでなく、財務省が減額に躍起なのは、診療報酬を1%下げると国庫負担を約800億円減らせるため。08年度予算編成で、同省は薬価と中小企業の従業員が加入する政府管掌健康保険の国庫負担減を想定していたが、政管健保の方は与党の慎重論が強く、診療報酬本体を引き下げないと予算が組めない可能性も出ている。中医協の意見を踏まえ官邸・与党が12月中の政治決着を目指す運びとなるが、調整は難航が避けられない。【吉田啓志】
毎日新聞 2007年11月15日 東京朝刊