全盲患者放置(11月15日)
危ない危ないサーカス小屋があったとさ。綱渡りのロープが張ってある。高いところを行くほど、たくさん賞金がもらえる。観客もみな渡るのがここの規則だ。眼下に見える安全ネットは小さい。もし落ちたらどんな目に遭うのか▼小屋の名前は「ニッポン」。格差社会である。この人も福祉の安全ネットからこぼれたのだろう。糖尿病で入院していた大阪の全盲男性が、病院の職員四人に連れ出され公園に放置された▼七年前から入院していた。二年前、生活保護を打ち切られる。医療費は自己負担となり支払いはたまった。職員たちは男性を車に乗せる。前妻に引き取りを求めたが拒否された。このため公園に降ろし、匿名で救急車を呼んだ▼要するに捨てたのだ。いまや経営効率の悪い医療機関では生き残れない。カネの切れ目が、倫理の切れ目になる。日本はこんなことまで起きる国になってしまった▼人々が安心して暮らせる安全ネットの目を粗くする一方で格差を広げる。そんな「改革」が事件の背景にあろう。病院が保護責任者遺棄の疑いで調べられたのは当然だが、庶民を不安の中に放り出したままの政治の責任は重い▼公立病院の経営を「効率化」する指針案を、総務省の懇談会がまとめた。北海道は経営環境の悪い病院が多く、厳しい中身だ。安全ネットがますます心細くならないか。大阪の話は人ごとには聞こえない。