2002-2003シーズンから始まったアジアのクラブNo.1決定戦、AFCアジアチャンピオンズリーグ。日本勢初の優勝を狙い、この日、決勝戦の第2戦を戦った浦和レッズは、イランのセパハンを2-0で破り、アジア王者の栄冠を手にした。
前半21分、相手ディフェンスのミスを突き、オフサイドラインをギリギリで抜け出した永井雄一郎が、右足でシュート。これが相手GKのモハマディの手をかすめてゴールイン、浦和が先制した。そのまま1-0で後半を迎えた浦和だったが、優勝への意識からかかたさが目立ち始め、ややセパハンが優位に試合を進め出す。しかし後半26分、ゴール前で永井のシュートのこぼれ球に阿部勇樹が反応し、頭で押し込み2-0、リードを2点差と広げた。これで浦和は落ち着きを取り戻し、その後は冷静に守りきり、6万大観衆が待ち望んだアジアチャンピオンに。なお、この試合の先制点を決めた永井が大会MVPに選ばれ、ポンテらが得点王となった。
この優勝により浦和は12月に開催されるFIFAクラブワールドカップへアジア代表としての出場権を獲得。今大会から、開催国枠が設けられたが、セパハンがこの枠から出場することになった。浦和はそのクラブワールドカップで、オセアニア代表のワイタケレ・ユナイテッド(ニュージーランド)とセパハンとの勝者と準々決勝(12月10日)を戦う。また、準々決勝の勝者は、準決勝(12月13日)で欧州代表のACミラン(イタリア)と対戦することがすでに決まっている。
「賞がふさわしい人はこのチームにはまだまだいるので」
永井雄一郎「とにかく勝ちに行こうという話はしていたし、相手がどうこうではなかった。今日は自分たちのきちんとつなぐサッカーができていたし、落ち着いてプレーをしていた。(FWも)3人が前に残ってしまって中盤との距離が開いてしまうよりも、一度下がってでも中盤との距離をコンパクトにしてそこからしっかり攻めていこうと(鈴木)啓太やワシントンとも話をしていた。ここまで(ACLで)自分がシュートを決めきれずに苦しくしてしまったこともあったので、とにかく今日はシュートで終わろうと思った。あのゴールは嬉しいというよりもホッとした。代表とはまた違って今日のようなこういう舞台に立つことはなかなかできるものではないと思う。(ACLは)予選から通じて環境も、ゲームもすべて厳しく、振り返ると苦しく長い道のりだった。みんなに、優勝のプレゼントをしてもらったような気持ちですし(MVPも)この賞にふさわしい人はこのチームにまだまだいます。今日だけは喜んで、明日からまたJリーグに気持を切り替えて連覇を目指します。クラブ選手権は確かに楽しみではありますが、すべては連覇し、その後に考えていきたいです」
「どうしてあそこにいたんだろう」
阿部勇樹「自分にできることをあのポジション(右サイド)でやろうと思った。この試合に賭けていたし、こういうピッチに立てることを誇りに思った。自分がサイドでプレーをしているとサポーターの声が聞こえて勇気づけられました。腰のほうは試合が始まってしまえば関係ない。(2点目は)あとは落とせばいいだけでしたから。でも、何であそこに自分がいたのかわからない。後半は向こうも人数をかけてきたので、自分が下がったり、平川さんが下がったり、両サイドでバランスをみならがやっていた。優勝の瞬間、喜び方がわかりませんでした。皆と一緒にああいう形で喜びを分かちあえて本当に嬉しい」
「PK戦までもつれた韓国戦が本当に苦しかった」
ポンテ「(ACL得点王の)タイトルはタイトルだが、それよりも優勝のために戦ったのだから。日本のチャンピオンから、アジアのチャンピオンに大きく進むことができたことに意義がある。(個人的には)前半はまあまあ、満足できるパフォーマンスだったが、後半になって前半に打撲した背中が痛くなったから交代は当然だ。ACLを思い起こせば、PKまでもつれ込んだ韓国(城南一和)戦が本当に苦しかった。浦和にとって、初めてACLに出場し、初めて優勝を果たしたのが大きい。その中でも、アウェーで引き分けはあったが負けない戦いをし続けた(ホーム&アウェーの戦い方を徹底した)ことにも素晴らしい価値がある。今は、Jリーグをしっかりと戦ってからクラブW杯の話をしたい」
田中マルクス闘莉王「みんなで勝ち取ったタイトルだと思う。すばらしいサポーターにお礼を!」
「今日一日喜んで何が悪い!」
オジェック監督 今は本当に本当に嬉しい。特に、(記者会見場に入って)記者の皆さんから拍手をいただけるなんて、何て素晴らしいんだろうと(会場は笑いに)。率直に言ってこの勝利をどれほど喜んでいるか説明するのも難しい。ここに来て、観てくれた方、テレビで試合を観た方、本当に今日は両チームとも高いパフォーマンスの試合を見ることができたはずです。そしてこの雰囲気を作ってくれたサポーター、本当にありがとうございました。
──厳しい日程の中で優勝をつかんだ
オジェック監督 確かに厳しい日程だったが、選手は素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。今日一日喜んで何が悪い! と言いたい。そして明日からはまた日曜の清水との試合に向けて準備をしなければ。新聞によれば、Jリーグのどのチームも私たちを倒そうとしているそうだから、よりよい準備をしたいと思う。
──永井がMVPをもらったが、DFもよりよい働きをしたのでは
オジェック監督 その通りだと思う。これは主催者側がシンボルのように決めるものであって、守備陣は点を取るのと同じように失点をしないように戦い続けてくれた。個人表彰は大会のもの、しかし勝ったのはチームだ。
──トゥーリオは
オジェック監督 もちろん素晴らしい活躍をした。彼は攻撃のビルドアップにも参加し積極的にセットプレーもする。しかし彼も、チームの1人であり、組織の一部だと考えている。
──クラブ選手権への抱負は
オジェック監督 すでに組み合わせは決まっており、セパハンとはまた対戦するかもしれない。次の対戦はまた厳しいだろう。そしてそれに勝てば、ACミランと戦える。CWCでミランと戦うというのは、日本のサッカー界にとっても本当に重要なことになると思っている。
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優勝を決めサポーターに手を振るオジェック監督 Kimimasa Mayama/MPictures |
「ミランにぶつかりたい」
藤口光紀社長「本当にやっちゃいました(しばらく言葉に詰って)。選手は本当に、この1試合1試合でたくましくなった。決勝の雰囲気で当初は固くなっていたが、それも10分、20分で落ち着いて永井のゴールが全体を落ち着かせてくれたのではないか。そして、このACLでずっと続いたサポーターのあの応援、イランではいろいろと移動で大変なこともあったが、あれでみんながひとつにまとまったという気がする。大会を通じで、よくない試合はあったかもしれないが、アウェーではとにかく負けることなく、ホームで絶対に勝つ。こういうのは、今後もACLを戦う上でもいい手本になったはずだ。苦しい時間が続いてスタジアムも、選手も皆が2点目を欲しいと思ったときに、ワシントン、永井のシュート、そしてそこに阿部まで絡んでくると、本当にしっかりつないで2点目を奪ったことは今日のポイントで、うちのよさを示したゴールじゃなかったかな。
今回のうちの優勝でアジアで勝つという新しい目標をJリーグ全チームが持ったはずだ。来年は3チーム出るから、これから対戦する(上位に入るチャンスがある)清水にもいい動機を与えて燃えさせてしまったかもしれない。今日のスタジアムの雰囲気も、(アジア連盟の)ハマム会長がアジアにこれほどのクラブがあるとは、と言ってくれた。Jリーグがアジアをリードし、これからアジアともどももっと発展していくきっかけになる優勝だ。
(かつてJリーグのお荷物と言われましたが、と聞かれ)思い出させないでよ(笑)。でも、お荷物っていうからには中身は空っぽじゃなかったんだ。随分重い中身を持ったからこそ、お荷物と言えたんじゃないか。
もちろんJリーグ連覇が今の目標だが、アジアの優勝というのは、世界に挑戦するための途中にあるもので、12月にはもう1回セパハンと戦い、その後、ミランにぶつかっていきたい。真剣勝負の舞台で、ミランとやることができればと。(今日くらいは打ち上げて下さいよ、と言われ)今日はね(笑)。明日からはJリーグに気持を切り替える」
「おめでとうではなくて、ありがとう」
川淵三郎キャプテン「日本のサッカー界のために頑張ってくれたことに、本当にありがとうという気持ちだ。かつて14年前、Jリーグのお荷物だとまで言われたクラブがこうして紆余曲折あってアジアの頂点に立つのは、Jリーグの歴史そのものを象徴してくれたようだ。市長にも『川淵さんがお荷物と言ったから、絶対に見返してやると思った』と言われたが、ただ荷物だからという話ではなくて、本当に見返して欲しかったから、今日は本当に嬉しい。代表戦とは違って、少しはリラックスして見られるかなと思ったが、今は後頭部が痛いほど緊張していたのがわかる。アジアのハマム会長には、今日のスタジアム、サポーターを見て、これほど素晴らしい雰囲気がJリーグにはあるとわかってもらえたし、こちらから、アジアのサッカーにも女性や子供がもっと来られるようにと改革の提案をしている。宗教上の問題(イスラム教では女性がスタジアムなど男性を一緒に観戦することが慣習で禁止されている)で拒否されるかと思ったら、この雰囲気に驚いた会長はそれを推進したいとまで言っていた。この優勝は、日本がアジアのリーグで改革でも発言権を増していく後押しをしてくれるだろう」
「Jリーグ代表としてミランに勝って欲しい」
鬼武チェアマン「今年は、新たにJリーグとしてACLを支援しようと一生懸命やった結果、本当に頑張ってくれた。Jリーグの未来もここから始まると思う。これでACLに3チームが出られることは、リーグ全体をものすごく刺激してくれるだろう。どういう支援を続けるかはまた検討しなくてはならないが、精一杯支援はする。セパハンともう一度やって、ミランと是非やってそして勝って欲しい」
「夢が叶い、新しい夢が生まれる」
後半が始まって、高地から降りてきたばかりのセパハンのスタミナが力を見せ始めていた。立ち上がりから3トップにシステムを変え、さらに早くも15分で交代3枚を切ってしまうという猛攻勢に対して、浦和の守備陣はじっと耐えた。スタジアムも選手も、ベンチも次の得点がどちらに入るか、胃の痛むような厳しい時間帯に生まれた2点目こそ、この日の、ACLの、今年のレッズの力を象徴するようなゴールだった。
後半、同点に追いつかれてはいけない厳しい時間帯、トゥーリオは「1点も与えられない。とにかく体をあてて行こうと考えていた」と話し、坪井も「3トップだけではなくサイドからのボールに注意を払った。厳しい時間帯だった」と体を張った。
攻撃陣も冷静だった。日曜日の川崎戦では「造反」「暴走」と言われたワシントンだが、この日あえて、前線に張らずに下がることで、中盤の距離をコンパクトにし、受けてははたく、はたいて走るという、いつもとは違った作業をコツコツとこなした。永井も「無駄走り」を少しもいとわず、ポンテも背中に打撲を受けながらもミスをほとんどしない集中力を見せた。後半26分、攻守のこうした丁寧で忠実なチームプレーが結実した。
左サイドからトゥーリオが中央に上がってきていたワシントンにミドルの正確なパスを通す。ワシントンはこれをたたいて永井へ。永井は力一杯シュートを打ち、GKがこれをクリアしたところへ、山田の負傷によって右サイドに配置されることになった阿部が頭で飛び込み2点目を奪った。
「どうして自分があそこにいたのかわからない」と、試合後つぶやいた姿が印象に残る。バスに乗ってほっと一息ついたときに、きっと阿部はわかっただろう。チームが、組織が、歴史が、スタジアムが、腰痛で足がしびれながらもピッチに立ち、勝利に貢献しようとした彼の背中を押したのだと。
選手はロッカーで雄たけびをあげた。しかしポンテがすぐにこれを制したそうだ。「日曜日、エスパルスに勝たないと」と。
ミックスゾーンに出てきた選手の口から、ACLに大喜びするコメントも、クラブ選手権への抱負も聞くことは難しかった。目の前にあるものを手にするため、どれほど苦しい時間を過ごしてきたのか、慎重に、浮かれず、集中して、といった「勝者のメンタル」がそこにあった。
それでも、せめて今日くらいは、と藤口社長にコメントを聞いた。アジア制覇はゴールではなく通過点だ、と社長は言った。そして、「ミランにぶつかりたい」と話した。「夢って本当に終わりがないのだと、今日あらためて知りました」。
社長だけではなく、選手もサポーターも、日本サッカー界にも、浦和はそれを教えてくれた。
(取材・文=増島みどり、写真=Kimimasa Mayama/MPictures)