物足りなかったイチローの守備機会(第365回)
イチローが7年連続ゴールドグラブ賞を受賞した。彼の打球に対するスタート、処理、そして強肩と守備の三要素を兼ね備えたプレーは、米大リーグでもとどろき渡っており、当然の結果だと思う。イチローは日本時代と同じ7年連続の受賞で、200安打と共に自ら課している目標を成し遂げ「(中堅に転向し)これまでとは違った意味のゴールドグラブになった。個人的には(日本時代のゴールデングラブ連続受賞回数)7に並んだことも大きい。パズルの最後のピースが入った感じです」と語った。
プロ入り初めてフルシーズン中堅を守ったイチローは155試合でフライやライナーをつかんだ刺殺が424、送球で刺した補殺が8で、失策は9月12日アスレチックス戦でスウィッシャーのフライを、左翼イバネスが捕球すると思いこんで、あわててグラブを出してはじいた1度だけ。守備率・998は、1992年にケン・グリフィーの・997を抜くマリナーズ外野手の球団新記録となった。しかし、第326回で、「中堅イチロー、夢の500刺殺なるか」と書いた私からみれば、守備機会が物足りなかった。
いくつか数字を出してみよう。9イニング換算の守備機会は、8月19日のエンゼルス戦から転向し39試合守った昨年は3・06だったが、今年は2・90。昨年の平均守備機会を今年のイニング数で弾き出すと23個余計に打球を処理する事になる。リーグ最多は、タイガースのカーティス・グランダーソンの平均3・04。イチローは2番目だが、彼だったならリーグトップになって欲しかった。
もう一つ、記録記者時代によく使った外野守備のバロメーターに打たれた三塁打数がある。二塁打は打球方向で阻止するのは難しいが、三塁打は外野手の機敏な動きと強肩。それに加えて中継に入る内野手との連係プレーもからんで、三塁で刺したり、打者走者を二塁に自重させることが出来る。そう考えると、マリナーズが打った三塁打22本に対し、打たれたのは34本もあったのは外野陣に問題ありだ。過去3年間を見ても、20―22-23。今季の突出ぶりがうかがえる。今季の34本は、マリナーズにとって、名手グリフィーが左手首を骨折して72試合しか出場できなかった1995年の40本以来(三塁打の収支がマイナスになったのも1999年以来)の多さでもあった。
本拠地セーフコ・フィールドではわずか8本と堅い守りを見せながら、敵地では26本も許しているのが目立った。マリナーズの試合をフルカバーしている本紙の津川晋一通信員によれば「左翼イバネスもそうだが、右翼ギーエンの動きが慣れない敵地で特に緩慢に思えた」と話している。両翼2人の守備の緩慢さをカバー仕切れなかったのかもしれない。
なお、左翼ウィン、中堅キャメロン、右翼イチローの布陣だった2003年は、わずか14本に抑えたが、この年のキャメロンの刺殺数は485とマ軍中堅手全体で545のフライ、ライナーをつかんだ(今季は全体でも452)。投手陣の違いもあるだろうが、マリナーズにとって同年のトリオがチーム史上最強の外野陣だったかもしれない。
ギーエンは移籍が濃厚で、イバネスはDHになる構想もあるというマリナーズ。中堅イチローが最高に力を発揮できる布陣になって欲しいものだ。
[写真]7年連続ゴールドグラブ選出のイチローも記録から見ると物足りない
【追伸】MLBの新人王開票結果を、少しでも早く知りたいと思い徹夜した13日早朝、「神様、仏様、稲尾様」と奉られた稲尾和久さんの訃報が、インターネット上に飛び込んできた。全盛時のライブ映像は見ていないが、映画「鉄腕投手 稲尾物語」でのスクリーンに躍動するピッチングフォームは印象深い。
映画「三丁目の夕日」の第一作は、西鉄ライオンズが3連敗から同投手の4連勝で大逆転となった日本シリーズが演じられた年。映画の中の皆が、日々を一生懸命に過ごしていた時代は、プロ野球界では連投が当たり前で日々の勝利にこだわった時代だ。プロ野球に入ってからも「投げるのが楽しくてしょうがなかった。悔いのない野球人生だった」と述懐した稲尾さん。彼の存在こそ、働き蜂で上しか向いていなかった“昭和”を代表する人物だった。合掌。
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