◎企業市民宣言 地域に溶け込む契機に
金沢経済同友会が提唱した「企業市民宣言」運動の成否のカギを握るのは、県内に拠点
を置く県外企業の対応だろう。県外からの進出企業が地域と共生して、まちづくりに貢献していくという趣旨に賛同し、こぞって参加する空気が醸成されれば、地域一丸となった「県民運動」に発展していく期待が膨らむ。県外企業が地域に溶け込むきっかけとなるよう、まず地元企業が先頭に立って汗をかくことも求めたい。
石川県にはこのところ、企業立地が相次いでいる。今年から来年にかけての投資総額は
一千億円に達し、五百人を超える新規雇用が生まれる見通しという。その経済波及効果は大きいが、迎える側の出費もばかにならない。工場用地の取得に始まり、アクセス道路、港湾、上下水道など社会資本の整備、最大三十五億円に及ぶ企業誘致の助成金などに、多額の県税や市町村税が使われている。進出ラッシュによって、人手不足に拍車がかかり、地場企業がしわ寄せを受ける懸念も指摘されている。
進出企業のなかには、親会社の社長自ら「企業市民」を宣言し、地域貢献活動を進めて
いく考えを表明したところや、世界的なIT企業が支社開設にあたって社長が社会貢献の意思表示をしたケースもあるが、まだまだそれは少数派である。地場並みに古い社歴を持ちながら、親会社のある県外にばかり目を向け、地元と疎遠な企業もある。
雇用や納税など、経済活動を通じた地域貢献だけでは、企業の社会的役割を果たしたこ
とにはならない。地元で支持されぬ企業が日本で、まして世界で信頼される企業になれるとは思えないのである。この地によって立つ企業はみな「企業市民」の誇りを持ち、地域のために、社会的地位や影響力にふさわしい貢献をしてほしい。そのことは、そこで働く従業員にとっても、大きな誇りになるだろう。
海外に進出した日本企業は過去の苦い体験を生かして、国情や生活習慣の違いを十分過
ぎるほど調査し、進出後も現地に溶け込む努力を怠らない。日本国内だったら、そうした配慮は一切不要というわけではないはずだ。郷に入っては郷に従う、のことわざ通り、地域に愛されるほんの少しの努力をしてほしい。
◎道路整備計画案 無電柱化など質の向上を
国土交通省が公表した来年度から十年間の道路整備中期計画素案は、道路特定財源をす
べて使い切る、いわば税収ありきの内容に見える。可能な限り、天井いっぱいまで積み上げるような計画では、税収のすべてを自動的に道路に振り向ける仕組みを改めるという改革の流れにはそぐわない。
昨年十二月の閣議で、道路歳出を上回る道路特定財源の余剰分は道路以外にも使える一
般財源とする方針が決まったが、素案は一般財源に回す余地はないと言わんばかりである。これはあくまで議論のたたき台であって、今後どこまで削減に踏み込めるかによって改革の方向性が決まるだろう。「真に必要な道路整備」については無電柱化を含めて道路の質を高めることも重視し、事業の必要性や優先度について徹底的な検証が必要である。
計画素案は、高速道路などの高規格道路のうち、従来の計画で積み残しとなっていた未
着工区間約二千九百キロの必要性を認めており、六十八兆円という事業規模も現行の五カ年計画の実績のほぼ二倍に匹敵する。道路公団民営化に始まるこれまでの改革の流れや閣議決定との整合性が気にかかる。
揮発油税などに上乗せしている暫定税率については時限立法で五年ごとの更新を続けて
きたが、さらに十年の延長を前提にしている。財政難と税源探しが困難な中で、暫定税率を維持するのは理解できるとしても、税収を使い切るような発想は一般財源化を牽制するための帳尻合わせの印象もぬぐえない。
事業の峻別(しゅんべつ)で道路整備の質を考えるということは、その事業が地域のた
めに本当に役立つかどうか効果を見極めることである。無電柱化は欧米と比較して最も遅れている分野であり、景観のみならず、防災、安全な歩行環境という面からも重要である。事故が多発する交差点の改良や、危険性のある通学路の整備も優先的な課題と言えよう。
参院選の与党惨敗後、「地方活性化は道路で」という声が強まっているが、道路をつく
れば大きな経済波及効果が期待できるという地域は減ってきている。不毛な予算獲得合戦に陥り、時計の針を逆に戻すような状況だけは避けねばなるまい。