インド洋での海上自衛隊による給油活動を再開するための新テロ対策特別措置法案が、衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、参院に送付された。第一党の民主党をはじめ野党が多数を占める参院が、法案をどのように扱うかが焦点となった。
民主党は、給油活動は集団的自衛権の行使に当たり憲法上許されないなどとし、反対姿勢を崩していない。参院で法案を否決し、与党側が衆院で再議決に踏み切れば福田康夫首相の問責決議案提出という強気のシナリオが語られてきた。だが、小沢一郎代表の辞任騒動を境に民主党の雰囲気が変わった。
問責決議案を提出し、可決されれば首相は衆院解散・総選挙に出る可能性がある。参院選後、民主党が求めてきたことだが、それは困るとの空気が出てきた。代表辞任騒動が党の失点となった上に選挙準備不十分がいわれ、力量不足という小沢氏の指摘も重くのしかかっているようだ。民主党は衆院テロ防止特別委員会、本会議とも採決で大して抵抗しなかった。世論の反発を恐れたためだろう。
首相の外遊日程も絡み、参院外交防衛委員会での本格審議は今月下旬にずれ込みそうだ。自民党は法案の修正協議を求めている。対する民主党は、先に参院に提出したイラク復興支援特別措置法廃止法案の審議を優先すべきだと主張している。
対テロ新法案の審議に入っても、衆院と同じく、守屋武昌前防衛事務次官と防衛商社の癒着問題や、インド洋で海自が提供した燃料のイラク作戦転用疑惑などをさらに追及していく構えだ。
強気の姿勢と見えるもののその実、民主党は総選挙絡みで対テロ新法案への態度を決めかね、及び腰で審議引き延ばしを図る戦術と映る。会期延長にもかかわらず、今国会では審議未了で廃案とする考えも党内から出ている。
アフガニスタンのテロ対策にどうかかわるのかという重要事項の本格審議を回避する姿勢は、納得できない。給油活動を打ち切ったままでは国際的責任が果たせないと与党側は主張している。どう応じるのか。国会の場で堂々と議論し合うべきだろう。テロ対策特措法にあった国会承認事項が削除されるなど、新法案への疑問点もある。
民主党も対案となるアフガン支援法案を準備しつつあるが、内容などに関して党内意見がいまだにまとまっていない。早急に対テロ新法案への対処方針を決め、国会議論を通じて新たな対テロ貢献策を導き出すことが、参院第一党としての責任だ。
健康保険法に基づき保険が適用される診療に、適用されない自由診療を併用する混合診療を受けると、保険適用診療分も含めて医療費の全額が患者負担となる制度をめぐる訴訟で、東京地裁は国の政策に「法的根拠はない」と判断し、原告のがん患者に保険適用診療分の受給権を認めた。
原告は、二〇〇一年から腎臓がん治療のため保険適用のインターフェロン治療に加え、適用外の「活性化自己リンパ球移入療法」を併用していた。国を訴えたのは、医療費が全額自己負担となる現行の制度では費用が大きくなり過ぎ、望む治療をあきらめざるを得ないからだ。
国は保険診療と自由診療を併用する混合診療を原則禁止している。解禁すれば、自由診療は支払い能力がある富裕層に偏り、所得の違いで医療に格差が生じかねない。平等な医療が受けられる国民皆保険制度を危うくする問題もはらむ。自由診療が一般化すれば、安全かどうか分からない診療が広がり、患者が不利益を被る恐れも出てこよう。
患者の経済的負担を軽減するにはすべての医療に公的医療保険が適用されるのが最善だが、保険料の引き上げが避けられなくなろう。簡単に国民的合意が得られるとは思えない。
国は例外的に混合診療を認める「保険外併用療養費」制度を導入している。先進医療や医薬品の治験など一定のケースでの保険診療との併用だ。しかし、医療技術が急速に進歩し、治療に対する要望も多様になり、未承認薬や先端医療を受けたい患者や経済界から混合診療の全面解禁を求める声も多い。地裁判決を受け、敗訴した国は重い宿題として混合診療の在り方を真剣に議論する必要があろう。
(2007年11月14日掲載)