俺「ただいまー。…なんか焦げ臭いな」
翠星石「お、おかえりなさいですヤスヒロ…」
真紅「おかえりなさい」
俺「ただいま。真紅遊びに来てたのね。そういや翠星石おやつ作るとか言ってたよね」
翠星石「い、一応出来てるは出来てるですよ…。余りの材料でヤスヒロの分しか作れなかったですけど…」
真紅「ちょうど翠星石がお菓子作りをしていたから手伝ってあげたのだわ。
いつもお世話になっているお礼なのだわ。どうぞ召し上がれヤスヒロ」
俺「へー。なんか悪いね俺だけ。どれどれ…おー、今日のおやつは木炭か。…木炭?」
真紅「…何を見て言っているの?」
俺「いやだって皿に木炭が乗ってるから…。俺炭食い族じゃないから炭を食べ物とは見れないんだけど…」
翠星石「な、何言ってるですか!チョココロネですよ!チョ・コ・コ・ロ・ネ!よーーーく見るです!チョココロネですよね!?」
俺「いやどう見ても炭だろ…ほぐぁ!」
真紅「どうしたの?変な声出して」
俺「翠…!」
翠星石「な、なんでもないですぅ。ヤ、ヤスヒロったら目が疲れてるみたいですぅ。目薬差してやるですからちょっとこっち来やがれです」
俺「な、なんなんだよ翠星石!」
翠星石「(お前いい加減気付きやがれです!真紅に手伝ってもらったら真っ黒焦げにしちゃったんですよ!)」ヒソヒソ
俺「(わ、わかるかよ!炭にしか見えないのに!て言うかなんでその真っ黒焦げのが俺の分って事になってるんだよ!食べれないだろあれ!)」
翠星石「(翠星石はあんなの食べたくないです!
ヤスヒロいつも『食べ物は粗末にするな』って言ってるじゃないですか!真紅のためにも犠牲になってくださいです!)」
俺「(た、たしかにコレも完成した食べ物になるべき物だったんだろうけど…。明らかに体悪くするだろコレ…。翠星石も半分食ってくれよ)」
翠星石「(半分でも翠星石には致死量です!一人で全部食えです!)」
俺「(んなもん俺だって一緒だっての!半分だ!これは譲れない!)」
真紅「いつまでかかっているのあなたたち。客人をあんなむさ苦しい部屋に一人置いておくなんて」
翠星石「な、なんでもないです!さ、さあヤスヒロ!向こう行ってチョコ…」
俺「し、真紅!ここで一発余興なんてどうかな!?体育の日記念!俺と翠星石の、ガチンコ屋内缶蹴りゲーーーム!なんて」
翠星石「はぁ!?」
真紅「ああ、そういえば今日は体を動かす日だそうね。くんくんがテレビで言っていたのだわ」
俺「そうなんだよそうなんだよ!見るよね?そ、それじゃ準備してきまーす。(翠星石こっち来い!)」
翠星石「(ど、どういうつもりですヤスヒロ!?)」
俺「(ラチがあかないから勝負で決めようっていうんだよ。俺が負ければ俺が全部食って、俺が勝てば翠星石も半分食べる。これでどうだ)」
翠星石「(絶対食べないって言ってるです!半分でも嫌です!)」
俺「(ああ…そうか。俺に勝てる気がしないんだな)」
翠星石「(はぁ!?)」
俺「(いやいや俺ときたら世界カンケリング・チャンピオンだからね…。
俺の圧倒的オーラを感じ取って勝てないと悟ったんだよね。
賢明な判断だよ翠星石。戦わずして負けを認めるのも仕方ないよね翠星石…)」
翠星石「やぁったらああああですうううぅぅ!!!」
俺「そう?それじゃあさっきの条件を守るという約束の指切りだ」
翠星石「指切った!ですっ!」
俺「(フフン…焚き付けがうまくいったな。怒らせちゃって心は痛むけど命には替えられん。
逆上させるとこから俺の策は始まる…。勝負はすでに始まっているのだよ翠星石)」
俺「じゃ、室内で缶は蹴れないから缶の代わりにポテチの筒箱ね。俺が鬼で、100秒目と耳を塞いでる間に翠星石が隠れる。
俺が翠星石を見つけて「翠星石みっけ!」と翠星石より早く箱を蹴れば俺の勝ち、その前に翠星石が箱を蹴れば翠星石の勝ちだ。いいね」
翠星石「のぞむところです!」
真紅「2人とも気合いが入っているわね…。これは熱い勝負が見られそうなのだわ」
俺「ところで真紅、俺と翠星石の漢と乙女のガチンコ勝負、どちらにも手を貸さないと宣誓して貰えないかな?それをこの戦の始まりとするよ」
真紅「ええ、2人の真剣勝負、水を差すような無粋な真似はしないのだわ。くんくんに誓うのだわ」
俺「くんくんに誓ってくれるなら安心だ。それじゃあ始めようか…翠星石!」
翠星石「翠星石の奇策で一瞬でカタを付けてやるです!」
俺「このデス・ゲーム…。負けるわけにはいかない!」
真紅「ゴクリ…。2人の間のこの威圧感…。いったい何が2人をここまで駆り立てるのかしら…」
俺「じゃあ始めようか。1,2,3,4,…」
目と耳を塞いで数え、そして運命の100秒が過ぎた。
俺「…100!さて、どこに隠れたかな…。(おそらく…。…! 思い通り!!)
…ねえ、真紅」
真紅「なに?」
俺「実は、翠星石が隠れるところの大体の見当は付いたんだ。
翠星石はカッとなると事を急く傾向があるよね。この状況だと勝負を急ぐという事。
さっきも『奇策で一瞬でカタを付ける』と言っていた。奇策で一瞬…。
この国には灯台もと暗しという言葉があるんだよ。近くにあるほど目が行かないって意味だけど…。翠星石が使いそうな手じゃないかな?」
真紅「…」
俺「目標である缶があるこの部屋で、音で俺の動向をチェックでき、100秒で隠れるのに適したところ。そう、例えば…」ソロリソロリ...
俺「(このクローゼットの中とかね)」
真紅「…!」
俺「(うまく隠れてしてやったり、ってつもりだろうが、翠星石…。レースがはみ出てるんだよ!)
ふ…。
(だ、駄目だ。まだ笑うな。こらえるんだ…。気配を気取られて玉砕覚悟で飛び出してくる事もある…。
確実に勝つためには虚を突かなければ…。翠星石の姿を見てから…。
いや、開けてから。クローゼットを開けた瞬間に勝ちを宣言しよう…。そしてその瞬間に反転、箱を蹴って俺の勝ちだ…)
真紅「…」
俺「フー…。…翠星石、俺の勝ちだ!」ガチャッ!
俺「翠星石みっ…け…?…な…に…?ば、馬鹿な…。レースだけ…レースだけだと…?」
背後からの声「なにが勝ちなんですぅ?」
俺「!? す、す、翠星石…」
翠星石「ふふふ…。頭に血が上ったように見せて、分かりやすく策があるように見せれば騙されると思ったですぅ。
負けてヤスヒロに逃げ道ができない状況を作るため…。裏の裏…。翠星石は隣の部屋との扉の死角に隠れてただけです」
俺「そ、そんな…」
翠星石「さあ、この箱を蹴れば翠星石の勝ちですー!」
俺「バ…!や、やめろ!」カコーン
俺「あ、あ…」
翠星石「やったですー!翠星石の勝ちですー!」
真紅「見事な勝負だったのだわ!」
翠星石「いやー良い汗かいたですねーヤスヒロ。どーしたです?フラフラですよ?真紅の焼いてくれたチョココロネで栄養補給です!
(さあ約束ですよ!一本まるまる食べるです!)」
俺「(…し、知らない…)」
翠星石「…は?」
俺「(俺はそんな約束は知らない…)」
翠星石「(お、往生際の悪いやつですー!)
つ、疲れて食べられないですかぁ?押し込んであげるですぅ!
(ほら口開けろですーーー!!!!)」
俺「(い、いやだー!食いたくないー!)ぐごがが…」
真紅「一口で食べてくれるなんて…。お味はどうかしら?」
俺「う…ぐぐ…。ゴクン…。ぐごご…。
お、お、美味しかったよ真紅…。な、涙が出るくらい美味しかったよ…」
真紅「そう?それはよかったわ。
でも、よくそんな黒焦げな失敗作が食べられるわね。家畜でも食べないわよ」
俺「わかってんじゃないかよー!ちく…しょ…う…」ガクッ
だって。
思わず息絶えるとこだったけどコゲさえ我慢すれば食べられない事はなかったよ。
中身は翠星石が作って、焼くのだけ真紅がやったらしいし。せめてコゲを落とした状態で食べたかった…。
そして真紅、失敗作だと分かってるなら気を遣ってよ…。
それにしても、俺が翠星石の行動を予測していた事を逆手にとって、逆に策に嵌めるなんて…。
もし次やる時は絶対に負けない!ライバル関係っていうのはこうやって作られていくんだね。
永遠の好敵手(ライバル)ってなんかかっこいいよね。俺は幸せ者だなあ!ハッピー体育デー!\(^o^)/
俺が嵌めたつもりが嵌められるハメになるちょっと前の翠星石はきっとこんな感じだったんだろうなあ。
思い通りに事が運んでいたのは翠星石の方だったんだね…。やられたよ!><
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