世帯普及調査でみる日本のインターネット市場の変化

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ブロードバンド世帯普及率は50.9%でインターネット普及状況は成熟期へ
今後は接続の質やインターネットの利用内容、アクティビティに着目

中島由弘:インターネットメディア総合研究所所長
柴谷大輔:インターネットメディア総合研究所研究員

「インターネット白書」では、日本のインターネット利用の規模を把握するため、1997年から毎年、全国規模の世帯調査を行っている。
本調査は2007年3月時点で、何らかの機器によりインターネットを利用している人がいる世帯の規模を把握することを目的としている。調査では、自宅でのパソコン、インターネット接続が可能なゲーム機やTV、そして携帯電話・PHSの所有率を調べるとともに、インターネット利用を自宅の所有機器による利用、勤務先・学校・外出中(携帯電話・PHSを除く)の機器による利用、携帯電話・PHSによる利用など利用場所別・利用機器別に調査した。

インターネットの世帯普及率は64.0%。インターネット利用者は8,226.6万人

調査の結果、5,874世帯、6,000個人から回答を得た。利用場所・利用機器を問わず、世帯内の誰かがインターネットを利用している「世帯浸透率」は83.3%、自宅内のパソコンやゲーム機などその他の機器(携帯電話・PHSを除く)を利用してインターネットを利用している「世帯普及率」は64.0%であった。昨年までとは調査手法・調査対象都市を変更しているため、純粋に時系列での比較はできないが、「世帯浸透率」は頭打ちの感があり、一方で「世帯普及率」はまだ伸びている。勤務先や学校でインターネットを利用している人がいる世帯や携帯電話・PHSからインターネットを利用している人がいる世帯において、自宅機器からの利用が増えたことも考えられる。

一方、インターネット利用人口の推計値は8,226.6万人となった。すでに述べたように、調査手法・調査対象都市・推計手法とも変更しているため、昨年までの調査結果からの増加数の絶対値に意味はないが、2006年2月の7,310.4万人から順調に増加している。
利用機器・利用場所別にインターネット利用人口をみると、「自宅機器からの利用者」が3,050.4万人、「自宅、勤務先・学校・外出中の機器両方からの利用者」が2,660.5万人、「勤務先・学校・外出中の機器からの利用者」が1,15.8万人、「携帯電話/PHSのみの利用者」が1,399.9万人となっている。昨年度からの大まかな傾向は、「自宅機器からの利用者が増加」、「携帯電話/PHSのみの利用者」、「勤務先・学校・外出中の機器からの利用者」が減少している。


 

<ブロードバンド世帯普及率は50.9%、ブロードバンド人口は4,627万人>

自宅内のパソコンやゲーム機などその他の機器(携帯電話・PHSを除く)を利用したインターネット利用者のブロードバンド利用率「ブロードバンド世帯普及率」は50.9%となり、はじめて日本の全世帯の半数以上となった。また、ブロードバンド利用者数は4,627.0万人であった。なお、3G携帯電話によるインターネット利用は、ブロードバンド人口には含めていない。

光ファイバーなどのインフラ整備に加え、利用価格の低下やサービス内容の向上、CM・キャンペーンの効果もあり、光(FTTH)回線の契約数は順調に伸びている。NTTの光(FTTH)サービスであるBフレッツの2006年度末の契約数は607.6万件であり、2005年度末の341.9万件から大幅増加、またフレッツ・ADSLを契約件数で逆転している。さらに、2007年度末には947.6万件と見込んでいる。今後も、光(FTTH)が牽引する形でナローバンドからブロードバンドへの移行が進むとともに、ADSLから光(FTTH)への乗り換えも進んでいくことだろう。

※本調査のブロードバンド接続の定義は、ADSL、CATV、光ファイバー(FTTH)、公衆無線LAN、専用接続線による接続方法としている。

10代後半~30代での利用率は90%超

個人ベースでの利用場所や利用機器にかかわらないインターネット利用率は65.6%である。男女ともに、10代後半~30代では、90%以上の高い利用率であり、年代が上がるにつれて利用率は徐々に低下、高齢者と非高齢者の間に大きな格差が生じている。高齢者では、60代では男性が53.5%、女性が35.4%、70代以上となると、男性が24.3%、女性が9.0%であり、特に60代以上の女性での利用率の低さが目立つ。高齢世帯では、そもそもパソコンや携帯電話を利用できない人が多いことに加え、女性の高齢者の場合、離職して相当年月経過した人など、勤務先でインターネットを利用できる環境にない人も多く、さらに利用率を低下させているものと思われる。今後は、団塊の世代が60代になるなど、インターネットを利用可能な高齢者が増え、さらに少子化によって若年層のインターネット利用人口が伸びないことから、インターネット人口の構成比も高年代にシフトしていくと思われる。

IP化完了世帯は0.8%、世帯IP化指標は28.2

高速の接続回線の普及やコスト削減、技術的課題の解決により安定した利用が可能となってきている。その結果、インターネットではウェブやメールの利用だけでなく、IP電話による音声通話、IPTVやVOD(ビデオオンデマンド)サービスによる映像や音声視聴を利用することができるようになっている。この、ウェブやメール(データ通信)、通話、映像や音声視聴の3要素すべてがIPに置き換わることによって、これまで別々の事業者と契約していたユーザーが3つのサービスを同一事業者から受けられるようになりコストメリットを得られることや、相互接続性による付加価値サービスなどを受けられるなどのメリットを得ることができる。そこで、このような3つのサービスをIPによって受けることが出来る世帯を、IP化完了世帯と呼ぶこととしたい。なお、この場合、接続回線は光(FTTH)やADSLといった有線の場合、公衆無線LANや今後開発されるであろう4G携帯電話など無線の場合、どちらでもかまわない。

3要素それぞれの利用状況を個別にみていこう。基本となるウェブやメールの利用世帯(インターネット普及世帯)は64.0%であり、インターネット非利用世帯は36.0%である。

次に、「通話」についてみると、IP電話利用世帯は18.0%であり、インターネット接続で光(FTTH)回線利用者のIP電話利用率が56.6%となるなど、光(FTTH)回線利用者において光電話とのセットで契約するケースが多い。光電話は安い料金に加え、0AB~J番号(いわゆる一般的な市外局番)を利用でき、これまで利用していた加入電話の電話番号も引き継げることから、今後もこうした流れは続くと見られる。次に映像や音声視聴の状況をみると、現段階では、IPを利用した地上波テレビの再送信まで至っておらず、映像サービスは、多チャンネル放送とVOD(ビデオオンデマンド)サービスに限られる。多チャンネル放送やVODは、BSやCS放送、CATVが先行しており、IPを利用したこれらのサービスの利用世帯は1.8%である。

さて、ウェブやメール(データ通信)、通話、映像や音声視聴の3要素組みあわせた利用状況(図02)をみてみる。ウェブやメール(データ通信)、通話、映像や音声視聴の3要素すべてをIPによって利用可能な、「IP化完了世帯」は0.8%である。次に、ウェブやメールに加え、通話あるいは映像や音声視聴のどちらかをIPによって利用できる世帯「基本+メディアサービスIP化世帯」は18.0%である。次に、ウェブやメールのみ利用可能な「基本IP化世帯」は45.2%である。最後にウェブやメールが利用できない、つまりインターネットが利用できない「インターネット非利用世帯」は36.0%となっている。


 

ここで、日本の全世帯が、ウェブやメール(データ通信)、通話、映像や音声視聴の3要素すべてをIPによって利用可能な状態を世帯IP化指標100とし、全ての世帯でインターネットが利用出来ない状態を0と定義すると、2007年の世帯IP化指標を図1-1の結果から集計すると世帯IP化指標は28.2となる。

IP化指標100に向けては、インフラ面では光(FTTH)の普及によって着実に進んでいるが、最もネックとなるのは、映像や音声視聴のIPでの利用だろう。通話については、光電話の普及によって順調に伸びていくと思われるが、映像や音声視聴については、現在は多チャンネルやVODサービスに限定されているという大きな弱点がある。また、IPTVの技術はまだ標準化作業中でもあり、普及にもまだ時間がかかると思われる。一方で、現在、放送と通信の融合や連携が注目されており、総務省においても、放送番組などのIP配信時の運用ルールや要件などを検討し始めており、急速に進展しつつある。また、コンテンツや料金によっては、利用者の増加も考えられる。

日本のインターネット普及状況は成熟期に入ったといえる。今後は普及状況に加え、世帯IP化指標やインターネットで利用可能なサービス、アクティビティ、さらにはコネクティビティの向上などに注目していきたい。