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2007年11月14日

◎トキの分散飼育 次は石川県への運動しっかり

 新潟県の佐渡で人工的な繁殖が軌道に乗っている国際保護鳥のトキを鳥インフルエンザ から守るために国内で初めて分散飼育することになり、百六羽のうち四羽を来月、東京の多摩動物公園に移すことが決まった。

 これは鳥インフルエンザが終息しないため、佐渡以外にも飼育地を分散したいとする環 境省の方針に基づくものであり、同省は来春にも多摩動物公園以外の候補地への分散飼育を行う予定である。

 島根県などとともに候補地として名乗りを上げている石川県としては、次は「いしかわ 動物園」に白羽の矢が立つよう、働きかけや受け入れ準備をさらにしっかり進めたい。

 いしかわ動物園はトキの受け入れを目指して、トキの近縁種であるシロトキとクロトキ を多摩動物公園から譲り受け、その繁殖に成功した。十二月までに完成させる希少鳥類保護ケージにその幼鳥を入れて公開し、トキ誘致への意義や熱意を持ってもらうことにしている。

 加えて日本の野生のトキが最後まで生息したのは佐渡と能登の二カ所であり、そのため に私たちの郷土もトキへの思慕が強い土地だ。トキがくれば、愛着がよみがえる。自然の大切さを子どもに教えることからも、「トキよ、来てくれ」だ。

 能登のトキは一九七〇年代に、佐渡のトキは一九九五年に絶滅した。その後、中国では トキがまだ生息していることが分かった。トキに愛着を抱く石川県の愛鳥家らの呼び掛けによってNPO法人日本中国朱鷺(とき)保護協会ができ、中国にトキ保護資金を贈るなどの支援をねばり強く続けている。

 そのお返しとして中国から日本へトキのつがい一組が贈られてきた。これが佐渡で飼育 され、百羽をこえるまでに繁殖したのだ。中国でも保護が進み、今では千羽をこえたといわれる。

 日中が提携して行っている人工飼育の目的は、絶滅寸前のトキを増やし、自然へ返して やることだ。笑い話ならよいのだが、トキを観光資源と考える人たちもいて、石川県へやると、観光客を取られるから絶対にやるな、との話が本当にあると聞く。そのようなみみっちさを笑い飛ばすおおらかさがないと、トキを野生へ返してやることなどできない。

◎テロ新法案衆院通過 本質論議もっと深めよう

 参院に送付された新テロ対策特別措置法案は、衆院で四十時間を超える審議時間をかけ たものの、守屋武昌前防衛事務次官の防衛商社との癒着疑惑の追及に多くの時間が割かれ、日本が果たすべき国際平和協力活動に関する本質的が議論が尽くされたとはいえない。防衛利権に絡む守屋前次官の疑惑解明は大変重要であるが、対テロ新法案の審議はそれと切り離して進めるのが筋ではないか。

 参院での法案審議は、衆院解散・総選挙の思惑が絡み、衆院での再議決や首相問責決議 を行うかどうかで与野党がけん制し合い、駆け引きに走る傾向がある。民主党は、イラクでの活動から航空自衛隊を撤収させるのが緊急の課題だとして、同党が提出した「イラク復興支援特別措置法廃止法案」の審議を優先させる構えだが、どう見ても対テロ新法案の審議先延ばし戦術に映る。

 また、政府・与党も福田康夫首相の訪米に備え、ともかく衆院通過の実績を米側に示す ために採決を急いだ印象は否めない。参院での議論がこれほど国民に注視されることはかつてないことであり、与野党はその重みをまず自覚してほしい。

 小沢一郎民主党代表によると、先の福田首相との党首会談で、自衛隊の海外派遣は国連 安保理か国連総会の決議があった場合に限るという原則で一致したといわれる。真偽のほどは定かではないが、この点こそ日本の国際平和協力活動の在り方に関する最も重要な論点であり、あいまいなままにしておけない。

 要するに、日本の安全保障のために日米同盟と国連のどちらに重きをおくのか、国連決 議に基づく国連活動は憲法の規定に縛られないという小沢代表の考え方でよいのかどうか。これら重大な論点を、国会の場で深く掘り下げてもらいたい。

 民主党は、インド洋での給油活動に代わるアフガニスタン支援活動に関する法案の骨子 をまとめたという。参院第一党の責任政党として政府提出法案に反対するのなら、対案をきちっとした法案にまとめて国会に提出しなければなるまい。そうすることで、より具体的な議論が可能になる。与野党が国民に向かって意見を戦わせ、国民の支持を取り付ける努力が大事である。


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