国語辞典「広辞苑」に新たに載る能登の魚しょうゆ「いしる」は、記者泣かせである。土地によって呼び名が違うし、その理由もはっきりしない 内浦と外浦で分かれるという説、イカやイワシなど原料による区別説、混用という主張もある。小紙は、現地尊重主義。土地の人が「いしり」と呼べばそう記すし、「よしる」という名も安易に改めたりはしない 能登の方言研究者に「ここは言葉の宝庫です」と聞いたことがある。時代と共に新しい言葉が奥能登にも入ってきた。が、人々は古い言葉を簡単には捨てなかった。半島は行き止まりである。そういう立地もあるのだろうが、入り込んだ中世の言葉まで脈々と蓄えられている。いしるやいしりも、そんな大事な言葉なのかもしれない 同じ辞典に、「きときと」も富山の方言として入る。鮮度の良い魚の形容として広めたのは、富山人の手柄である。が、金沢周辺でも息づいており、魚に限った言葉でもない。夜更かしするやんちゃな子の目を指しても「きときと」と言う 方言は、土地で磨かれた宝物である。首都圏発信の物差しや解釈には、時に、まゆにツバつける必要もある。
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