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社説:「党首会談工作」 「さる人」の説明が聞きたい

 自民、民主両党による大連立構想の真相は依然不透明だ。ことは、国を治める権力の所在にかかわる重大問題である。当事者である福田康夫首相はもちろん、小沢一郎民主党代表が「さる人」として存在を明らかにした「仲介者」は事実を語るべきだ。

 小沢氏が今月7日の記者会見で明らかにしたところによると、党首会談に至る経緯は大要次のようなものだ。

 2カ月ほど前、「さる人」から呼び出され「お国のために大連立を」という話があった。10月半ば以降にその人からまた連絡があり「首相の代理の人と会ってくれ」という話をされた。「代理人」に会ったところ首相もぜひ連立したいということだったので、「首相から直接話を聞くのが筋だ」という話を返し、党首会談につながった--。

 「さる人」の名前を小沢氏は明らかにしていないが、読売新聞グループ本社の会長兼主筆の渡辺恒雄氏である、と読売新聞を除くほとんどのメディアが報じている。「さる人」がだれで、どのような仲介をしたのかは、まさに新聞の読者の「知る権利」の対象だろう。渡辺氏が仲介をしたのなら、その事実を紙面で明らかにすべきではないか。新聞の紙面づくりのトップに期待されることだ。

 読売新聞は8月16日付の社説で「民主党も『政権責任』を分担せよ」と大連立を提唱し、党首会談後の社説でも「それでも大連立を目指すべきだ」と持論を展開している。

 衆参両院で多数党が異なるねじれ国会の出現による政治の停滞を憂い、社説で大連立を提言するのは一つの考えだろう。また、それを記者が政治家に説くこともあるだろうし、求められれば助言をすることもあるだろう。

 しかし、それはあくまでも言論による説得であるべきだ。権力者間の仲介役をかって出るとすれば、新聞の使命を超えるのではないか。

 政治の停滞をどういう形で防ぐかは政治家側が国民の意向をくみながら判断すべき事柄だ。新聞が政治の権力づくりの当事者になって、権力監視という重要な役割を果たせるだろうか。

 振り返れば、私たちの先輩記者たちがかつて、政治家のパイプ役として動いたこともあった。しかし、そうした行動は報道の公正さを損なう恐れがある。自戒しなければならない。

 渡辺氏は新聞記者、新聞経営者としての半世紀以上にわたる功績が認められ、日本新聞協会から今年度の「新聞文化賞」を受賞している。経営者としても政治記者としても評価されている人だけに口をつぐんでいるのが不可解だ。

 日本新聞協会が00年6月に定めた新聞倫理綱領は、国民の「知る権利」は、あらゆる権力から独立したメディアが存在してはじめて保障されるとし、「新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい」とうたっている。そのときの新聞協会会長が渡辺氏だったのである。

毎日新聞 2007年11月13日 東京朝刊

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