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社説天声人語

天声人語

2007年11月09日(金曜日)付

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 55年の「保守合同」は、日本民主党の三木武吉、自由党の大野伴睦、両総務会長の秘密会談から始まった。密議は経済人らが仲介したが、政治記者たちも連絡役など様々な形で、歴史的な政界再編にかかわった▼当時大野番だった読売新聞グループ本社会長(主筆)の渡辺恒雄氏が、回顧録(中央公論新社)で、金のやりとりを含む裏話を明かしている。氏は4年後、41歳の中曽根康弘氏を大野に引き合わせ、科学技術庁長官として初入閣させた。中曽根政権の実現に尽くした件もよく知られている。どれも昭和の昔話……ではない▼民主党の小沢代表は2カ月前、「さる方」から食事に呼ばれ、「お国のために大連立を」と迫られた。福田首相との会談を仕組んだこの「さる方」が渡辺氏だという。「大記者」健在である▼渡辺氏と中曽根氏は、騒動のさなかのテレビ番組で大連立の必要性を説いた。中曽根氏は「主筆なら政治家や国論を動かしていいんです」と、盟友の隣で言い切った▼渡辺氏はロマンチストなのだろう。実現したい夢があり、それに向けて現実を動かし得る立場だ。とはいえ、ありのままを見て聞いて、書くのが記者。当事者として、つまり現実の一部になって書いたのでは、観察者の「見る聞く」作業が甘くならないか▼わが身が一線の記者なら、偉大な上司が黒衣役で「出演」する政治劇を、さてどこまで自在に書けるだろう。よりよい社会を念じて新聞は影響力を競うべきだが、世の中は後ろからではなく、読者と共に正面から動かしたい。

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