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社説:学習指導要領改定 また現場にしわ寄せが
「詰め込み」から「ゆとり」へ大きく動いた振り子が、また戻ろうとしている—。学習指導要領の改定作業を進めている中央教育審議会が決定した「審議のまとめ」は、大ざっぱに言えば、そんなイメージだ。
小中学校の授業時数を30年ぶりに増やす。その一方で、現行指導要領の目玉として登場した「総合的な学習の時間」を削減する。自ら学び考える「生きる力」の理念は「ますます重要」としながらも、実質的には「ゆとり教育」からの転換を図る内容である。
「ゆとり教育」は小中学校で平成14年度、高校では15年度から導入されたばかりだ。中教審の決定は、導入当初から指摘されていた学力低下批判の大きなうねりの延長線上にあり、十分に予想されたものである。
しかし「教育は国家百年の大計」であることを考えれば、どう説明しようとも「ころころ変え過ぎ」との批判は免れまい。
問題は、「ゆとり教育」の功罪をきちんと検証しないまま、かじを切ろうとしているところにある。「生きる力」を生かせなかった理由も、「文部科学省と社会との間に十分な共通理解がなかった」とか「子供の自主性を尊重するあまり教師が指導をちゅうちょしていた」で説明がつくものではないはずだ。
第一、授業時間を増やせば学力が向上するとでもいうのだろうか。そんな単純な話でないのは論をまたない。
大切なのは、主体的に学ぶ意欲と方法をどうはぐくむか、という視点であろう。要は、「量」よりも「質」をいかに充実させるか、今の日本の教育にはそれが最も求められているのではないか。
次代を担う子供たちをどう育てていこうというのか。150ページに及ぶ「審議のまとめ」を読んでも、その実像は明確な形で浮かんでこない。
むしろ教育現場への影響が気掛かりである。教員に聞くと、必ず返ってくるのが「忙しい」の言葉。各種報告書の作成に加え、保護者への対応も増えてきたという。これに、今度は授業時間増、小学校英語の導入、言語力強化などの負担が加わる。
確かに中教審は教員定数の改善を提言し、文科省は来年度から3年間で2万千人の教員増員を要求している。これが認められても、増えるのは公立小中学校3校に2校で1人の計算だ。それ以前に、現在の財政状況では実現が極めて厳しい。
教員が増えないまま新たなメニューが押し寄せればどうなるか。「子供の力を引き出すため、いろんな形でもっと子供と接する時間がほしい」という現場の声は切実だ。子供も教員も、それこそゆとりを失ってしまえば、満足な教育など実現するはずもない。
そもそも「ゆとり教育」は知識偏重や詰め込み型教育からの脱却を模索する中から生まれた。その根っこにある入試をどう改革するのか。そこに踏み込まなければ、いつまでたっても振り子が行き来するだけである。
文科省は来年3月をめどに改定指導要領を告示し、基本的には23年度から実施する見通しだが、もっと現場の声を吸い上げ現実的な議論をすべきだ。
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