2007年 11月 10日
サブプライム問題は収束するどころか悪化している感があり、アメリカでは連日のように金融機関が巨額損失を発表して、経営陣の後退や株価の暴落に見舞われています。そんな中で予想はされていたことですが、LBO案件が頓挫するケースが増えているようです。
11月6日のFTによると、今年にクローズ出来なかったLBO案件は$202bn(約30兆円)に上っているそうで、この額は去年の$99bn(約11兆円)の倍以上だそうです。
案件数で見てみると、今年に失敗したLBOは76件で、去年の55件と比べると4割増と、金額ほど大きな違いではないようです。最近の案件は大規模化しており、その分だけ必要なデットファイナンスの額も増えるため、デット市場のアペタイトが減少することで、大きく影響が出ているのだと思われます。
頓挫したと案件の中で特に大きなものには、CVCによるSainsburyのLBO、CerberusによるACS(Affiliated Computer Services)のLBOなどがあるそうですが、後者については確か日経などでも、デット市場の影響でディールがクローズ出来なかった例として報じられていた気がします。
当たり前ですが、状況が厳しいセクターの案件ほどファンディングが付けにくく案件が失敗するケースが増えているそうで、金融やテックセクターへの影響が目立つようです。
その例としてFTでは、学生ローンレンダーのSallie Maeの案件($26bn、約2.9兆円)や、KKRとGoldmanが買収予定だった高級オーディオなどのメーカーであるHarman Internationalの案件($8bn、約9,000億円)、Silver Lakeが買収予定だったテック企業のAcxiom($2.3bn、約2,500億円)などが挙げられていました。
前にも書いたことがありますが、テック業界はかつてはプライベートエクイティ投資にもっとも向かないセクターと言われていました。設備投資(資金支出)需要が旺盛で、かつ景気の波に収益が大きく左右されるテックセクターは、安定的かつ見通しのきくキャッシュフローが好まれるLBOの正反対と言えるセクターと言えます。それが半導体メーカーFreescaleのバイアウトを皮切りにテックLBOが勢いづいたのは、記憶に新しいところです。
そんな中、IRRが犠牲になることを嫌って銀行とのファンディング条件の交渉に応じない構えを見せていたPEファンドも、最近では積極的に条件交渉を行っているようで、その結果、失敗が懸念されていた大型案件の多くは、今でもパイプラインに乗っているようです。
実際FTによると、10月だけで$144bn(約16兆円)にも上る新たなLBOディールがサインされたそうで、これは記録的数字だそうです。ただこの中には、サブプライム問題が発生する前から話の出ていた、KKRとTPGによるTXUの買収案件($45bn、約5兆円)と、KKRによるFirst Dataの案件($26bn、約3兆円)が含まれているようで、業界の友人などから聞いているところによると、やはり夏以降は急速に案件数が減少しているそうです。
ちなみにFTによると、クレジットクランチが発生する前の6月には、276件のディールがクローズし、金額にすると$80bn(約9兆円)だったそうです。この数字を一つの参考に、今後どの程度の案件がクローズされていくかを見てみるのも面白いかもしれません。
このようにアメリカではLBOブームは完全に終わった感がありますが、大手PEファンドの香港オフィスで働いている友人によると、アジアでは「多すぎるお金が少なすぎる案件を追いかけている」という難しさは引続きあるものの、サブプライムや信用収縮によって案件が起こらなくなっているということはないそうです。
また信用市場の悪化は、リストラファンドや大手投資銀行やヘッジファンドなどのSSG(スペシャル・シチュエーション・グループ)と呼ばれる部隊をにわかに活気付けているようですし、大きな意味でのPEセクターの忙しさは、引続き変わらないのかもしれません。
ところで上記のCerberusによるACSの買収案件は、$8bn(約9,200億円)とかなりの大型な案件だったので、デット市場の影響はもちろんあったでしょうが、10月31日のFTには、他の原因も取り沙汰されていました。
その原因とは、以前にも書いたことがありますが、MBOにおける既存株主と経営陣との利害相反の問題です。
その記事によると、Cerberusが10月末にこの案件から降りると決めたのは、案件が始まった3月に社外取締役によって組織された「特別委員会」がCerberusとの交渉を拒否したからのようですが、委員会が案件に後ろ向きだった理由の大きな部分は、CerberusがACSの会長で創業者であるDarwin Deason氏と組んでMBOを計画していたからのようです。
LBOの中でも既存経営者がバイアウトファンドと組んで行うMBOは、株主(LBOに当たっては売り手となる)の利益最大化のために尽力すべき経営者が、なぜ特定の買い手であるファンドに利するような行動をすることが許されるのかと、懐疑的意見が広がっています。そこにクレジットの問題も加わったため、案件遂行が難しくなってしまったのかもしれません。
クレジットの問題が経済全体に大きな影響を与えるのは言うまでもありませんが、先日CNBCでアメリカの議員が、「お金がない人がクレジットにアクセス出来ず、家が買えないという問題意識から生まれたはずのサブプライムローンなのに、貸し手の制御が効かなくなったせいで、今ではお金がない人にお金を貸すこと自体が問題視されている」と指摘していました。
その指摘の通り、これは一つの課題に対する解決策が別の問題を生んでしまったという典型的ケースなのかもしれませんが、アメリカお得意の「試行錯誤」の問題解決で、制御が効かなくなった問題部分に早急に手が入れられて、景気があまり悪化する前に金融・住宅ローン市場に安定性が戻ることを期待したいと思います。
11月6日のFTによると、今年にクローズ出来なかったLBO案件は$202bn(約30兆円)に上っているそうで、この額は去年の$99bn(約11兆円)の倍以上だそうです。
案件数で見てみると、今年に失敗したLBOは76件で、去年の55件と比べると4割増と、金額ほど大きな違いではないようです。最近の案件は大規模化しており、その分だけ必要なデットファイナンスの額も増えるため、デット市場のアペタイトが減少することで、大きく影響が出ているのだと思われます。
頓挫したと案件の中で特に大きなものには、CVCによるSainsburyのLBO、CerberusによるACS(Affiliated Computer Services)のLBOなどがあるそうですが、後者については確か日経などでも、デット市場の影響でディールがクローズ出来なかった例として報じられていた気がします。
その例としてFTでは、学生ローンレンダーのSallie Maeの案件($26bn、約2.9兆円)や、KKRとGoldmanが買収予定だった高級オーディオなどのメーカーであるHarman Internationalの案件($8bn、約9,000億円)、Silver Lakeが買収予定だったテック企業のAcxiom($2.3bn、約2,500億円)などが挙げられていました。
前にも書いたことがありますが、テック業界はかつてはプライベートエクイティ投資にもっとも向かないセクターと言われていました。設備投資(資金支出)需要が旺盛で、かつ景気の波に収益が大きく左右されるテックセクターは、安定的かつ見通しのきくキャッシュフローが好まれるLBOの正反対と言えるセクターと言えます。それが半導体メーカーFreescaleのバイアウトを皮切りにテックLBOが勢いづいたのは、記憶に新しいところです。
そんな中、IRRが犠牲になることを嫌って銀行とのファンディング条件の交渉に応じない構えを見せていたPEファンドも、最近では積極的に条件交渉を行っているようで、その結果、失敗が懸念されていた大型案件の多くは、今でもパイプラインに乗っているようです。
実際FTによると、10月だけで$144bn(約16兆円)にも上る新たなLBOディールがサインされたそうで、これは記録的数字だそうです。ただこの中には、サブプライム問題が発生する前から話の出ていた、KKRとTPGによるTXUの買収案件($45bn、約5兆円)と、KKRによるFirst Dataの案件($26bn、約3兆円)が含まれているようで、業界の友人などから聞いているところによると、やはり夏以降は急速に案件数が減少しているそうです。
ちなみにFTによると、クレジットクランチが発生する前の6月には、276件のディールがクローズし、金額にすると$80bn(約9兆円)だったそうです。この数字を一つの参考に、今後どの程度の案件がクローズされていくかを見てみるのも面白いかもしれません。
このようにアメリカではLBOブームは完全に終わった感がありますが、大手PEファンドの香港オフィスで働いている友人によると、アジアでは「多すぎるお金が少なすぎる案件を追いかけている」という難しさは引続きあるものの、サブプライムや信用収縮によって案件が起こらなくなっているということはないそうです。
また信用市場の悪化は、リストラファンドや大手投資銀行やヘッジファンドなどのSSG(スペシャル・シチュエーション・グループ)と呼ばれる部隊をにわかに活気付けているようですし、大きな意味でのPEセクターの忙しさは、引続き変わらないのかもしれません。
その原因とは、以前にも書いたことがありますが、MBOにおける既存株主と経営陣との利害相反の問題です。
その記事によると、Cerberusが10月末にこの案件から降りると決めたのは、案件が始まった3月に社外取締役によって組織された「特別委員会」がCerberusとの交渉を拒否したからのようですが、委員会が案件に後ろ向きだった理由の大きな部分は、CerberusがACSの会長で創業者であるDarwin Deason氏と組んでMBOを計画していたからのようです。
LBOの中でも既存経営者がバイアウトファンドと組んで行うMBOは、株主(LBOに当たっては売り手となる)の利益最大化のために尽力すべき経営者が、なぜ特定の買い手であるファンドに利するような行動をすることが許されるのかと、懐疑的意見が広がっています。そこにクレジットの問題も加わったため、案件遂行が難しくなってしまったのかもしれません。
クレジットの問題が経済全体に大きな影響を与えるのは言うまでもありませんが、先日CNBCでアメリカの議員が、「お金がない人がクレジットにアクセス出来ず、家が買えないという問題意識から生まれたはずのサブプライムローンなのに、貸し手の制御が効かなくなったせいで、今ではお金がない人にお金を貸すこと自体が問題視されている」と指摘していました。
その指摘の通り、これは一つの課題に対する解決策が別の問題を生んでしまったという典型的ケースなのかもしれませんが、アメリカお得意の「試行錯誤」の問題解決で、制御が効かなくなった問題部分に早急に手が入れられて、景気があまり悪化する前に金融・住宅ローン市場に安定性が戻ることを期待したいと思います。