◆「子供を守ろう」全国に広がり
子供の安全を守るには、地域のコミュニティーが重要とされる。声を掛け合うことや、人目につかない危険な場所を教育することで子供を犯罪から守ろうという運動が各地で行われている。
◇登下校時、あいさつ/店舗に「110番の家」--岡山県
岡山県は同県警本部と連携し、「犯罪のない安全・安心まちづくり県民運動」を実施している。子供たちに「おはよう、おかえり」のあいさつをしたり、登下校の時間帯に庭掃除や買い物をするなど、大人の目が行き届く通学路を目指している。
また、「あぶないめにあいそうな場所」の特徴を説明したクリアファイルを作成し、危険な場所の見分け方を指導している。ファイルには「道との境にフェンスがない駐車場は入りやすく、自動車や自動販売機の陰は見えにくいよ」などの説明がカラフルなイラストで印刷されており、今春、県内の小学校に通う全児童に配布した。
同県では、自治体と民間企業の連携も図られている。
小学生が通学路として利用する岡山市郊外の大通り。歩道の脇に「こども110番の家」という幅1メートルほどの看板が目に付く。東京海上日動火災保険の代理店「東海保険センター」が自社看板の下に設置したもので、子供の目線の少し上の高さに「こまったときはこのおうちにきてね!」とある。
同社の岡山支店が社会貢献活動の一環として県内の代理店に呼び掛け、参加した約250店にステッカーを配布した。活動を開始した06年5月に各店の住所などを県に登録、県警本部から講師を招いて勉強会も実施した。同支店の麻植良晴次長は「始めて約1年半で、子供が駆け込んだ例はまだ一件もない。看板が出ているだけで街の安心感が広がる」と話している。
◇「守る会」が見回り活動--秋田・藤里町
06年に連続児童殺害事件が発生した秋田県では、県教委が各市町村に登下校時の児童見守り活動を徹底するためスクールガード配置を呼び掛け、全小学校に配置された。県は、「安全マップ」作製を指導するための養成講座を開催。全小学校の約8割にあたる215校の教員が参加した。
事件のあった同県藤里町には、町の防犯指導隊や婦人会などで作る民間団体「町の子どもを守る会」があるが、事件当時は農業の繁忙期で活動を休止していたという。事件後に活動を再開。通学路沿いの商店を子供の避難場所「110番の家」にするなど、約160人の会員が巡回、見守り活動を継続している。
◆専門家に聞く防犯、防災への心構え
子供が巻き込まれる犯罪はどんな場所で起こるのか。日ごろから災害に備えるためには、どんなことに心掛けて生活すればよいのか。防犯、防災のポイントをそれぞれ専門的に研究する立正大の小宮信夫教授と横浜国立大大学院の佐土原聡教授に聞いた。
◇「場所」に注目し、対策を--小宮信夫・立正大教授(犯罪社会学専攻)
日本の防犯対策は「危ない人に注意」という考え方が多い。人に注目するため「不審者」という言葉が生まれたが、この対策は間違っている。
姿かたちで不審者を判断すると、「マスク」「サングラス」「黒い帽子」--となる。だが、日ごろからこんな姿をしている犯罪者はいないため、見た目では不審者と判断できない。
子供の防犯教育も間違いが多い。「不審者に気を付けて」と教えるため、「おはよう」と子供にあいさつしても逃げ出してしまい、さらに通報するケースもある。子供と大人の距離が広がってしまい、犯罪者にとって好都合な環境を作っているのが現状だ。
欧米では「犯罪機会をなくす」という防犯対策が一般的だ。危ない場所を減らし、犯罪行為をしにくい街を作ろうというもの。危ない場所は、犯罪者が好きな場所。犯人目線に立てば、どこが危ないか分かる。見ただけで分かるため取り組みやすい。子供にも危ない場所を探させることで危険を予測する力が備わり、効果的な対策になる。
「危ない場所」とはどんな場所か。キーワードは「入りやすく、見えにくい場所」。例えば、フェンスがない公園は入りやすく、さらに木が茂っていると見えにくい。まさに危険な場所だ。
05年12月に発生した「栃木県今市市(現日光市)女児殺害事件」。女児が利用していた通学路から少し離れた近道には、落書きされたトンネルや自動車やパソコンなどの不法投棄があった。地域住民の関心がなく、目が行き届いていないことを示しており、犯罪が起きやすい環境だった。
正しい防犯対策は、「人」ではなく「場所」に注目すること。「地域安全マップ作り」も効果的な対策だ。大人と子供が会話する機会を増やし、犯罪に強い街を目指してほしい。「地域力の向上」こそが、安全な街づくりと言える。
◇「自然」との関係を意識--佐土原聡・横浜国大大学院教授(環境リスクマネジメント専攻)
災害対策は、環境問題への取り組みと密接な関係にある。95年1月に発生した阪神大震災では、災害と自然環境がいかに深くかかわりあっているかを示す事例が多く見られた。
まず、緑を増やすことの防災効果だ。地震に伴って発生した火災の広がりを植物が阻止した例がある。燃えていた商店街と別のブロックの住宅地の間にあった公園の木々が、住宅地に燃え移るのを食い止めた。現場に駆けつけた消防士も意図的に植物に向けて放水し、枝や葉を湿らせて火災の広がりを抑えたという。
また、多くのブロック塀が崩壊したが、庭の植物はほとんど倒れなかった。植物を利用した塀であれば、崩れて道路をふさいだり、けがを招くことは少なかったと言える。樹木の塀は「手入れが面倒」というリスクがあるが、景観もよく、視線をさえぎるという機能は十分果たす。
適切な水の管理も、災害時には重要な効果をもたらす。地域を流れる川の水がきれいに保たれていると、水道の断水時に生活用水に使うことができる。大都市は下流にあることが多いが、水質を決めるのは上流。水環境を意識した広域的なコミュニケーションが、川の水を生かせるかどうかを左右すると言える。
災害対策では、建物の耐震性がよく議論される。だが、鉄骨を多く使用することで鉄の生産量を増やし、温室効果ガス(二酸化炭素)の排出を増大させることが異常気象につながるという考え方もある。防災と環境は総合的に取り組む必要があると言えよう。
防災対策は、災害時の対応の訓練や防災グッズを準備しておくことが重要だ。だが、事前に被害を減らすため、自然環境の変化と人の活動がいかにいい関係を築けるかを考えたい。「自然を大切にする」ことを意識し、近隣との連携で「災害に強い街づくり」を心掛けることが大切だ。
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■人物略歴
◇こみや・のぶお
社会学博士。86年、法務省入省。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務総合研究所などを経て06年、立正大文学部教授。東京都「地域安全マップ専科」総合アドバイザー、青森県「防犯環境設計アドバイザー」など、全国で安心安全のアドバイザーを務める。51歳。
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■人物略歴
◇さどはら・さとる
工学博士。00年より横浜国立大大学院環境情報研究院教授。都市環境エネルギー協会の研究企画委員会委員長、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の地域新エネルギー・省エネルギービジョン策定等事業審査委員会委員などを務める。49歳。
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◆「だいじょうぶ」キャンペーン概要◆
《事業内容》子供向け防犯教室や防災訓練、シンポジウム、コンサートなど
《会場》神戸市のほか全国各地、東京都渋谷区など
《主催》だいじょうぶキャンペーン実行委員会(会長・国松孝次=元警察庁長官)
《共催》全国防犯協会連合会、全日本交通安全協会、原子力・安全保安院、日本消防協会、全国防災協会、日本河川協会、日本道路協会、都市計画協会、全国警備業協会
《後援》内閣府、総務省、警察庁、国土交通省、経済産業省、文部科学省、防衛省、消防庁、海上保安庁、東京都、渋谷区、日本放送協会
《協賛》NTTデータ、NTTドコモ、KDDI、国際警備、JR東海、JR東日本、JT、セコム、セントラル警備保障、全日警、綜合警備保障、東急グループ、東京海上日動火災保険、トヨタ自動車、DOWAホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、三菱商事、三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、明治安田生命
《協力》国学院大学
毎日新聞 2007年10月31日 東京朝刊