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NIKKEI NET

更新:2007/11/12

大連立構想、地方に広がる波紋

政治部・山本公彦(11月12日)

 「今回の件で、民主党に対する不信感が再び強まった」。小沢一郎代表と福田康夫首相との先の党首会談で浮上した「大連立」構想が、次期衆院選で実動部隊として期待されている連合の地方組織に微妙な影を落としている。民主は今年7月の参院選で「二大政党制の実現」を訴え、連合の協力を取り付けてきた。それだけに、自民との連立構想には「裏切られた」(組合員)との声が広がっているからだ。

 10月29日夜。初めての党首会談を翌日に控えた小沢氏は、輿石東代表代行とともに都内で連合の傘下にある日教組、自治労の幹部と懇談した。席上で小沢氏は会談について「福田さんが『国会運営に詰まってどうしたらいいか分からないから会ってくれ』と言ってきたから会うことにした」と説明。次期衆院選に向けて改めて協力を呼びかけた。

 2回目の党首会談前日の今月1日も、小沢氏は再び連合の地方組織と宇都宮市で宴席を設けた。「大連立話が福田首相との間で浮上しつつあるのか」。不安がる連合側の質問に、きっぱりと「そういうことはない。大連立は考えてない」と強調した。ところが、フタを開けてみれば、構想が浮上しているどころか、小沢氏は連立に前向きだった。

 連合は納得がいかない様子だ。次期衆院選で政権交代を果たし、二大政党制を実現する――。連合側はこの2点で民主と理想を共有し、選挙での協力に汗をかいてきた。小沢氏は自らの連立構想がそうした理想への近道だと釈明するが、連立相手が自民だけに、連合の拒否反応は強い。

 連合は1989年の発足時から政権交代可能な政治制度の構築を掲げ、非自民政権の樹立を目指してきた。94年の自社さ連立政権の際、当時の支持政党の一つだった社会党が与党入りしたにも関わらず全面的な支援を控え、是々非々の対応を取った。だからこそ、自民との連立に動きかけた小沢氏とは「分かり合えない」(幹部)とのわだかまりが残る。

 ところが5日、連合の古賀伸明事務局長が発表した談話は「連立提案を拒否したことは当然」としたものの、同時に「引き続き民主を全力で支援していく」と冷静につづった。別の連合幹部は「敵をだまし味方もだますのが小沢流といえば小沢流」と小沢氏の行動を不問とし、今後も衆院選に向けた協力体制を続ける考えを強調する。本部が先頭を切って火消しに務めるのには、依然として他の野党が力不足で、民主以外に選択肢がないという弱みもある。

 民主と連合を巡っては、同様のあつれきが以前にも起きた。「脱労組依存」を掲げ、関係の見直しを図った前原誠司前代表の時代だ。このときも連合の地方組織が「必要なときに支援だけさせておいて脱労組とは何事か」と反発。民主執行部が「『脱労組依存』とは連合との関係を打ち切るのではなく依存状態を見直すべきとの主張に過ぎない」との釈明に走り、連合側の不満を覆い隠した。

 もっとも、連合との間にさざ波が立つことを誰よりも戸惑っているのは小沢氏自身かもしれない。「民主は地方組織が脆弱(ぜいじゃく)」と評する小沢氏は、選挙での連合の重要性を熟知している。参院選では高木剛会長、古賀事務局長の両氏を連れ立って全国を行脚。選挙直後も真っ先に連合本部を訪ね、次期衆院選への支持を要請した。今後、再び連合の地方組織を回り、今回の党首会談について「丹念に真意を説明し、誤解を解くことに注力する」(党選対幹部)という。

 連合内では民主による「脱労組依存」への反発すら「完全に無くなったとはいえない」(幹部)。今回の大連立騒動について、連合の地方組織からは「あの時以上のインパクトだった」「民主がいつ変節するか分からないまま選挙をどう戦えばいいのか」などと不安の声が漏れる。

 一方、民主の中堅議員も「連合の支援なしで衆院選は戦えない。小沢氏だけでなく、議員もお詫び行脚をすべき」と危機感を強める。前回参院選で2004年参院選比5.5%増の182万票を獲得した連合。巨大支援組織と民主の関係は今、再び岐路に立っている。

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