現在位置:asahi.com>国際>国際支援の現場から> 記事 ウイグル人の希望の星〜ラビア・カーディルさんの戦い(下)〜2007年11月03日 アムネスティ@中国・新疆ウイグル自治区 中国の少数民族・ウイグル人の希望の星と呼ばれているラビア・カーディルさんは99年、「国家に不利な情報を海外に提供した」として国家安全危害罪で投獄されてしまいました。アムネスティは彼女を「良心の囚人」と認定し、即時釈放を求めて世界中から支援しました。
■ウイグル人に対する差別と抑圧 ラビアさんの出身地、新彊ウイグル自治区では、中央政府が政策的に漢民族を移住させた結果、かつて5%程度だった漢民族人口は現在50%を超えるまでになり、自治政府当局によるウイグル人社会への締め付けは激しさを増しています。 イスラム教を信仰するウイグル人に対し、非公認のモスクを閉鎖させるなど宗教の自由を侵害したり、母語であるウイグル語での教育や出版の制限するなど、基本的な人権が侵害されています。また中央政府は、国際的な「テロとの戦い」を口実に、平和的な抗議行動をする者や民族の権利を主張する者を「テロリスト」「分離主義者」として逮捕し、数千人の政治囚が監獄に入れられています。不当な裁判で死刑にされた人も少なくありません。このような状況に絶望して国外へ逃れる人も多くなっています。 近年、漢民族の移住や中央からの投資によって地域の経済は活性化していますが、漢民族とウイグル人の経済格差はどんどん広がるばかりです。このような状況に心を痛めたラビアさんは、店舗を持てず露天を営むウイグル人たちのためにテナントビルを提供したり、さまざまな慈善活動を行なっていました。 ■千の母親運動 なかでも、「千の母親運動」というマイクロ・クレジットの活動は、経済力の最も弱いウイグル人の家庭の主婦に希望を与えました。貧しい母親たちから小さな事業のアイデアを出してもらい投資することで、「新疆」に新しい産業の種をまき、女性に経済力を持たせようというものです。最初の募集では200人、2回目は3,000人のウイグル人女性から応募がありました。 ところが彼女たちの事業が発展し、投資資金を回収できるようになったころ、この運動は共産党の圧力によりつぶされてしまいました。 ■おまえの国を独立させる英雄の最後の姿はこうだ 獄中でラビアさんは、肉体的な拷問こそ受けなかったものの、それ以上につらい精神的な拷問に耐えなければなりませんでした。それは、隣の部屋で行なわれる拷問のうめき声や叫び声を聞かせる、目の前で同じウイグル人の政治囚を死ぬまで暴行し続け、その姿を見せる、などでした。日の光のまったく入らない独房に2年間も閉じ込められたこともありました。 ラビアさんが言葉を交わした1人の若い政治囚は、拷問に耐えながら、「私はウイグル民族のため、母のために自分を犠牲にしようとここへ来た。なぜあなたがここにいるのか」と言って意識を失いました。彼に拷問を加えていた公安の人間は「おまえの国を独立させてくれる英雄の最後の姿はこうだ」と言ったそうです。 ■亡命先の米国でも活動を再開 逮捕から6年目の2005年、夜中に突然たたき起こされたラビアさんは、どこに行くのかも知らされないまま、飛行機で北京に連れて行かれ、米国大使館に身柄を引き渡されました。中国政府は、国連や欧米各国の議会、在米ウイグル人協会やアムネスティ・インターナショナルなどの人権団体の圧力によって、ラビアさんを釈放し、米国に亡命させたのでした。 米国に保護されてから、ラビアさんは民族運動を続けるべきかどうか悩みました。運動を続ければ、中国に残った子どもたちが人質のように監視され、嫌がらせを受け続けることになります。息子だけでなくその嫁や孫までもパスポートを没収されていました。 しかし、海外在住のウイグル人の中から、チベットのダライ・ラマのような象徴のいないウイグル人の組織に、運動の求心力となるリーダーとして参加して欲しいという声が高まっていました。そして、これまでウイグル人の人権問題について声を上げてきたドイツの「世界ウイグル人会議」のメンバーとも直接話し合い、ウイグル人をひとつにまとめ、民族のための活動を続けていくことを決意したのでした。 現在ラビアさんは、在米ウイグル人たちの寄付によってワシントンに事務所を構え、「世界ウイグル会議」主席としての仕事を忙しくこなしています。2005年秋には、アムネスティ・インターナショナルとともにヨーロッパの9カ国を回り、獄中体験を話しながらウイグルの人権状況を訴えてきました。すべてのウイグル人が釈放され、民族が自由を取り戻すまで、彼女の戦いは続きます。 *参考文献:「中国を追われたウイグル人」水谷尚子・著(文春新書) (アムネスティ・インターナショナル日本 広報担当 野田 幸江)
【インフォメーション】 アムネスティ全国スピーキングツアー 「私たちは、『テロリスト』じゃない。〜『反テロ』戦争と新彊ウイグルの人権」 11月10日〜25日、アムネスティ日本は、中国・新彊ウイグル出身の元「良心の囚人」ラビア・カーディルさんを招いて、「テロとの戦い」の下で正当化されるウイグルでの人権侵害について知り、考えるための巡回講演会を全国8カ所で行います。 ●東京 11月10日(土) ●和歌山―田辺― 11月11日(日) ●岡山―倉敷― 11月15日(木) ●島根―松江― 11月17日(土) ●山口 11月18日(日) ●大阪 11月21日(水) ●北海道―札幌― 11月24日(土) ●新潟 11月25日(日) 詳しくは、こちらのサイトをご覧ください。 アムネスティの会員・サポーターになりませんか? 詳しくはこちらをご覧ください。
PR情報国際支援の現場から バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり どらく
一覧企画特集
特集
アサヒ・コム プレミアム朝日新聞社から |