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バイオブーム 燃料化、CO2増の恐れ―アジアの最前線から・2

2007年02月16日23時04分

 インドネシア・スマトラ島はイモの一種、キャッサバの産地だ。島の南部にあるインドネシア技術評価応用庁のバイオマスエネルギー開発センターの周辺にも広大なキャッサバ畑が広がる。

写真バイオ燃料の原料となるキャッサバの成長ぶりを調べる研究員=インドネシア・スマトラ島ランプーンの同国技術評価応用庁の研究所で、脇阪紀行撮影

 キャッサバはもともと焼酎や工業用エタノールの主原料だが、センターはエタノールをバイオ燃料として自動車に活用する研究を進めている。高さ約5メートルの実験プラントの蛇口からコップに注ぎ込まれた透明の液に顔を近づけると、強烈なにおいが鼻をつく。

 ある研究者は「代替燃料の研究は70年代の石油ショック直後に盛り上がったが、その後停滞していた。今回の政府の姿勢は真剣だ」と言う。

 バイオ燃料への世界的な関心の高まりを受けて、東南アジアでもブームが起きている。

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 インドネシアの首都ジャカルタでは昨年9月から、アブラヤシから採ったパーム油を、エンジンに支障の出ない5%だけ軽油に混ぜたバイオディーゼルの販売が始まった。市内のガソリンスタンドには「バイオ」をPRする看板も見える。

 東南アジアのバイオ燃料導入のきっかけは、石油価格の高騰だ。経済発展が続くインドネシアは04年に石油の純輸入国に転落し、自動車燃料の値上げが続いた。植物由来のバイオ燃料を使えばその分、石油への依存度を下げられるし、二酸化炭素(CO2)の排出削減も期待できる。

 インドネシアとともに世界最大級のパーム油生産国マレーシアもバイオディーゼルに熱い視線を注ぐ。

 06年5月、国営石油会社ペトロナスの担当者を連れて来日したアブドラ首相は当時の小泉首相に開発協力を要請。関係筋によると、新日本石油やトヨタ自動車はこうした動きに強い関心を寄せているという。

 ただ、ブームの陰で、さまざまな弊害を指摘する声も強まっている。

 パーム油のプランテーション開発のあおりでインドネシア、マレーシア両国などでは熱帯森林の減少が続いている。サトウキビなどをバイオ燃料にすれば食糧需要と競合するとの指摘もある。

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 さらに思わぬ懸念が持ち上がった。開発によってCO2がかえって増えるというのだ。

 両国では、泥炭の混じる湿地帯の森林に火をつけたり、排水したりすることで栽培地を確保する開発業者が少なくない。

 ところが国際NGO(非政府組織)の国際湿地保全連合(本部・オランダ)が昨年末に公表した調査報告によると、湿地を乾燥地に変えると泥炭から大量のCO2が排出されるという。パーム油1トンを生産するのに必要な土地の開発などで最大33トンのCO2が排出され、それなら石油を使ったほうがましとの試算も報告に盛り込まれた。

 バイオ燃料がかえって地球温暖化を進めるという報告の波紋は大きい。オランダ環境相は、パーム油を使ったバイオディーゼルの推進政策を見直し、政府補助金の対象から外す方向で検討しているという。

 年末ごとに開かれる温暖化防止の国際会議は今年、インドネシアで開かれる。同国環境省のマスネリヤルティ副大臣は「政府の指定地域に開発を限定しようとしている。泥炭地の火災を防ぐには自治体や警察との協力が必要」と話す。

 バイオ燃料自体は歓迎されても、生産の過程で問題が生じるという皮肉。温暖化防止は一筋縄ではいかない。

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アジアのバイオ燃料 キャッサバやヤシのほか、サトウキビ、ナンヨウアブラギリなど多岐にわたる植物からの生産が可能で、石油資源に乏しい東南アジアにとって新たな輸出産品としての期待も大きい。1月の東アジアサミットでも、バイオ燃料の利用促進に向けて、日本の協力で共同研究組織の設置や専門家の育成が決まった。

 食糧需要と共存するため、食用に適さない繊維質の主成分セルロースからエタノールを製造する技術の開発も進む。

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