特集:構想力とイノベーション(1) 1,松下幸之助は「二又ソケット」、ブリジストン創業者石橋正二郎は「地下足袋」を発明した 元松下電器副社長の水野博之氏(高知工科大学教授・スタンフォード大学教授)はよく「構想力」という言葉を使い世界中の起業家の勇気を奮い立たせてくれる。「構想力」とは何か?どうしたら身につくのか?水野氏の新著「構想力」が4月に出版予定されているが今回は、これまでの水野氏の講演やエッセイから「構想力」を特集する。 1,成功は既存のものをいかに組み合わすかで決まる 新旧問わず成功者の共通点は、「身近で、ありふれたもの」を組み合わす名人である。日本人の生活を激変させた大発明の一つに「二又ソケット」がある。私たちは、夜寝るときに灯りを消して豆電球に切り替えるが、これは松下幸之助が発明し世界中に広まった。松下幸之助は体が弱かった。したがって,勤め人にはなれないとあきらめて,自分で仕事をやろうと決心。決心はしてみたものの学歴や人脈があるわけではない。なにしろ小学校4年中退。しかし、その熱意において、彼は何者にも負けないものをもっていた。学問こそなかったが、工夫の大好きな彼は、日夜考えに考えて、“二またソケット”の発明に至った。アントレプレナの成功に学問はいらない、好きで好きでたまらない気持ちと情熱があれば成功するということを、彼は身をもって示した。 一方、ブリジストン創業者である石橋正二郎は、それまで日本人の常識であった足袋の裏にゴムをつけた「地下足袋」を発明し、これまた大ヒット商品となった。 この二つの商品に共通するポイントは、「新しい価値を生み出すのは、既存のものをいかに組み合わせるか」にある。「身近で、ありふれたもの」の中にこそビジネスのヒントは存在する。常識にとらわれない、既存の組み合わせから新しい何かを導き出す力を、ビジネスの最前線ではいつの時代でも求められる。その組み合わせる力のことを「構想力」と呼ぶ。新たに事業を興すとき、新しい環境に直面 したとき、内部改革を行なうとき等、変化に対応していくときに必須の視点が、今や世界的に必要な「構想力」である。その考えが最も足りないのが、現代の日本人である。 |
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2,既存の組み合わせでアポロ11号は月着陸を果たした 新しき組み合わせというのは,今あるものを組み合わせて,新しい機能を作り上げることである。1969年に人類は月へ着陸するが、この快挙を成し遂げた要素技術には、なにも新しいものはない。むしろ新しいものがあってはいけない。それぞれの技術は、品質から信頼性に至るまで、すべての性能は、とことん知れわたっている既存のものでなくてはならない。そうでなければ宇宙でなにが起こるかわからないからだ。 既存のよく知られた技術を組み合わせることによって、新しい機能を作り出し月着陸を果 たした。このような新しき組み合わせの例は、さまざまな分野で見ることができる。物理と化学の組み合わせによって「物理化学」という新しい分野が生まれた。社会学と心理学が組み合わさって「社会心理学」という新しいジャンルが生まれた。このように、社会に変革をもたらした新しい動きは、すべて新しき組み合わせに端を発している。
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3,「新しき結合」で世界一の金持ちになったビル・ゲイツ マサチューセッツ工科大学教授でコンピュータ・サイエンスの権威であるサスマンは「ビル・ゲイツなんてコンピュータ・サイエンスになんの貢献もしてないぜ。コンピュータの本のなかに彼の名前は1行たりとも掲げる必要はないんじゃないかな。少なくとも、私にとってはそうだ」と言った。しかし、ビル・ゲイツがいま、情報の世界を動かしていることは、まちがいない。では、彼のやったことはなんなのか? これこそ,いまあるものを組み合わせて新しい機能を作り上げる構想力の創出で、ビジネスを起こす確信だった。マイクロソフトが一大飛躍したのは、IBM-PCのOSの仕事を獲得したためであることは、よく知られている。この過程で彼の行ったことは、「新しき結合」であった。ビル・ゲイツ自身にOSのアイデアがあったわけではない。当時、パソコン用OSとしては、デジタル・リサーチ社のCP/Mだけが世に現れていた。シャトル・コンピュータ・プロダクツという会社にティム・パターソンという男がいた。なかなか16ビットのパソコン用OSが出てこないので業を煮やしたティムは自分で勝手にCP/MベースのOSをつくり、これをQDOSと呼んで使っていた。ビル・ゲイツはこれに目を付けて使用契約を結ぶ。このときビルは、このOSをIBM PC用に使うとはいっさい言わなかったので、このことが後々まで問題となる。彼はこのQDOSをベースに、IBM PC用のOSを作る。まさに、「新しき結合」を行うのである。 4,インターネット時代は構想力の創出が決め手になる「構想力の時代」である ビル・ゲイツだけではない。現在の情報化社会では、インターネットをいかに他とつなげるか、ということが重要になっている。この構想力において勝るものが勝者となる。本とインターネットを結び付けたアマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス。「オークション」と呼ばれる仕掛けを利用して、ありとあらゆる商品をインターネットにつなごうとしているイーベイのピエール・オミディヤ。こうして彼らは,いままでの商売のやり方を変えようとしている。「創造的破壊」がまさに行われつつあるのである。彼らはなに一つ特別 なモノをもっていたわけではない。ただ、彼らはほかのだれにも勝る構想力の持ち主であった。インターネット時代は構想力の創出が決め手になる「構想力の時代」である。
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