先日、家族で笠岡市の笠岡諸島に遊びに行ったのですが、高齢者が多いのに病院や消防署が見当たりません。定期航路がない夜間などに、救急患者が出た時はどのように対応しているのですか。
総社市井手、主婦(45)
「海の救急車」が搬送 24時間体制 119番で出動
高島、白石島、北木島、真鍋島、大飛島、小飛島、六島の有人7島からなる笠岡諸島。陸地部の笠岡港から最も遠い六島で約20キロ沖。どの島も消防署はなく、陸地部との間を結ぶのは船しかない。高齢化率が50%を超える島の住民が万一の場合、頼りにするのは「海の救急車」ともいうべき存在だ。
救急患者の搬送は、笠岡市から委託を受けた真鍋島、白石島、六島と、陸地側の神島外港、笠岡港の渡船業者など7業者が担う。もともとは島民が直接搬送を依頼していたが、1999年からは119番を受けた笠岡地区消防本部が現場に近い業者に出動を要請している。
出動は昼夜を問わず24時間体制。1回の出動につき運航距離に応じて3000―2万7000円の委託料が市から支払われる。2006年の出動件数は162件に上った。
「利用者は1人暮らしの高齢者や、限界まで症状を我慢した人が多い」というのは、年間100回前後も出動する「海上タクシー・幸進丸」の山本武志さん(48)=笠岡市真鍋島。近所の人や消防団に患者を港まで連れてきてもらい、六島からでも約30分で陸地部の港で待つ救急車に引き継ぐ。
風邪をこじらせて肺炎になった高齢者、毒蛇にかまれて血清が必要な人、出産が早まった女性など、これまでにさまざまな患者を搬送。台風が近づく中で船を出したこともある。「患者のため、波や揺れの少ない航路を選ぶなど気を付けている」という。
昨年、東京から真鍋島に家族で移住してきた久保田智子さん(38)は、長女が中学校の階段から落ちて足をけがした時、島の診療所に医師がいない日だったために船を要請。「すぐに陸地部で診断を受けられたのでほっとした。島暮らしにはとても心強い」と言う。
しかし問題点もある。患者がいる島に近い業者が本業で対応できずに搬送までに時間がかかったり、台風で海が荒れれば船を動かせない。専門的な設備やスタッフを備えた救急船ではないため搬送中の診療はできず、症状が悪化する恐れもある。
島民の間からは、救急船の導入や島に常駐する医師を求める声が絶えない。現在の制度は「同じ島の住民としてほっておけない」(山本さん)という助け合いの精神に支えられている。
常駐医師増やす努力を
年間約100件の救急搬送を行う山本さんは、十数年前に事故で左目を失い委託を断ろうとしたことがあるという。燃料費も高騰し委託業者の負担は大きい。今の体制が今後も維持される保証はない。
笠岡諸島には小飛島を除き診療所があるが、住み込みの医師は白石島のみで、他は市民病院や民間病院からの派遣だ。慢性疾患を抱える人は台風などの際、事前に陸地部の親類宅に移動するなど救急に頼らない努力をする一方で、「島に常駐医師を」という願いを皆が持ち続けている。
笠岡諸島の人口はわずか約2700人。だが、医療・福祉は決して切り捨てられてはならない。財源や医師不足で実現は難しくとも、救急船の導入や常駐医師を増やす方策を検討し続ける努力が市には求められる。