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企業告発サイト、恐るべし

サハリン2騒動は“シェル叩き”のとばっちりだった!

 かつて企業に対して不満や恨みを抱く人々は、新聞や雑誌に記事にしてもらったり、ビラを配ったりして、悔しさを訴えた。

 しかし、マスコミに取り上げられるのは、ごく一部の人々であり、道端でビラを配っても効果は限られていた。裁判という手もあるが、日本の裁判は時間がかかり、判決も当てにならない。弁護士費用を考えると、庶民はおいそれと訴訟も起こせない。

欧米で影響力を高める「企業告発サイト」

 こうした状況を変えつつあるのがインターネットの世界である。

 今、欧米では、「企業告発サイト」が力を持ちつつある。英語では、“gripe site”とか、“corporate hate website”などと呼ばれている。パソコンとインターネットさえあれば、自宅からどんどん情報を発信できるので、従来の方法に比べれば、費用も労力も格段に少なくてすむ。

 米国では、ユナイテッド航空、K. Hovnanianホームズ、アメリカン・エキスプレス、ペイパル(送金サービス会社)、ウォルマート・ストアーズ、マイクロソフトなどに対する告発サイトが存在する。サイトの運営者や読者は、企業に対して深い憤りや恨みを持つ人々だ。

 例えば、ユナイテッド航空であれば「飛行機の延着や荷物の紛失に対して、補償や誠意ある対応をしない」、K. Hovnanianホームズの場合は「家を買ったが電気配線や水道の配管に問題があり、苦情を言っても直さない」、ペイパルの場合は「問題があって何度電話をしてもきちんとした回答がなく、担当者は途中で電話を切ってしまう」といったことが原因である。

英銀行への手数料返還要求で26億ポンドが支払われた

 欧米では、客を客とも思わぬ扱いをされるのはざらで、英国に住んでいる私もしょっちゅうひどい目に遭う。こうしたサイトが現われても全く不思議はない。

 最近は、こうした企業告発サイトが力を増し、企業に対して重大な影響力を与えるケースが出てきた。

 英国では従来、当座貸し越しの限度オーバーが起きたり、小切手の引き落としができなかった時、銀行は1回30ポンド程度のペナルティーを顧客に科してきた。これが不当であると、マンチェスター生まれの35歳の金融ジャーナリスト、マーティン・ルイス氏が「MoneySavingExpert.com」というサイトを2003年に立ち上げ、消費者に対して情報や銀行に対する返金要請の書式を提供し始めた。

 その結果、HSBC、バークレイズ、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、HBOS、ロイズといった銀行が軒並み、顧客に手数料を返還せざるを得なくなり、これら5行だけで2007年上半期に総額4億ポンド(約960億円)を支払った。英国の有力日刊紙である「ジ・インデペンデント」は、銀行がこれまで顧客に返還した手数料の総額は26億ポンドに上ると推計している。

「サハリン2」の方向性を変えた英国人父子

 告発サイトが日本企業に影響を与えるケースも出てきている。

 ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事の3社が開発を進めてきたサハリン島の石油・ガス開発プロジェクト「サハリン2」が、環境規制違反を理由にロシア政府から圧力をかけられ、権益の過半をロシアのガスプロムに譲渡せざるを得なくなったことは記憶に新しい(正式譲渡は今年4月)。

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このコラムについて

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

筆者プロフィール

黒木 亮 (くろき・りょう)

黒木 亮

1957年生まれ。作家に転向する前は、金融マン。大手都市銀行を皮切りに総合商社の英国現地法人のプロジェクト金融部長などを歴任した国際金融のプロ。長い時間をかけた綿密な取材を基に、事実に沿ったストーリー展開は迫力がある。代表作に『巨大投資銀行(上)(下)』『青い蜃気楼―小説エンロン』『トップ・レフト―ウォール街の鷲を撃て』『アジアの隼』『シルクロードの滑走路』などがある。最新作は『カラ売り屋』。大学時代には箱根駅伝の走者としても活躍した。
(写真:住友 一俊)

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