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「赤ちゃんポスト」に半年で8人 多くは乳児院に 熊本

2007年11月11日21時25分

 熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」の名称で赤ちゃんポストの運用を始めてから10日で半年になった。これまで新生児から3歳までの8人の子どもが預けられ、住所がわかったケースはすべて熊本県外からだったという。親が引き取りにきたケースもあるが、多くの子はいま、乳児院にいる。小さな命をどう育むのか、救ったその先にも課題が横たわっている。

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乳児院で育てられている乳児たち

 熊本県内のある乳児院。日差しが差し込む暖かい部屋に、男児が寝かされていた。ポストに預けられていた子だ。

 苦しそうな息づかいで天井を見つめる。先天的な障害があるという。何かを訴えるようにぐずる。30分以上かけて、100ccのミルクを飲み終えた。「毎日、10グラムくらいずつ体重が増えています」。職員みんなで注意深く見守る。

 隣の女児が、小さな瞳で見つめる。この子も、ポストから来た。「ちょっと待っててね」。職員が声をかけると、指をしゃぶりながらじっとしていた。

 ポストに子どもを預ける親の事情はさまざまだ。関係者によると、ある夫婦は、子どもの病気の治療費に困り、ポストに預けたが、心配になって慈恵病院に問い合わせのメールを送ってきた。病院側が子どもの様子を知らせるなどやりとりをした結果、引き取りに来たという。

 母親が結婚するつもりだった男性に妻子がいることがわかったのがきっかけで預けられた子もいる。母親は中絶できず産んだが、ショックで仕事を辞めた。相談を受けた祖父が預けに来たという。

 「手紙を一緒に置いていく人もいる。預ける方も心配なのだろう」と病院関係者は話す。

 一般的に、乳児院に預けられた子は、3歳ぐらいになると別の施設に移ったり、里親に引き取られたりする。思春期を迎えると出自を知りたくなり、乳児院に聞きに来る人もいる。生みの親の名がわかり、生まれたときの状況を教えてもらえる場合もあるという。

 しかし、親が匿名で赤ちゃんポストに子どもを預けた場合、子は自分の親を知るすべがない。ポストから来た子を預かる乳児院で働く男性は、子どもの将来を心配する。「親のことが何もわからないと、その子の心に闇の部分ができてしまうかもしれない」

 こうした点について、慈恵病院の蓮田太二理事長は、命が救われる意義を強調したうえで「里親や養親に愛情深く育てられるかどうかが、子どもが将来悩むか悩まないかの大きな要因と思う。できるだけ早い段階で、家庭で幸せに育てられることを願う」と話している。

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