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山本 良一 氏 |
「温暖化地獄からの脱出に全力を」
人口が増大し、経済が成長した結果、二酸化炭素(CO2)の排出が増え、他の生物が絶滅に追いやられているというのが冷厳な世界の現実だ。世界のGDP(国内総生産)は年4%成長し、人口は65億人を突破、伸びは鈍ってはいるが1.1%増えている。CO2排出量は年280億トン、年間3.3%増えている。生物種の絶滅は、本当のところはよく分かっていないのだが年間1〜5万種、毎日100種くらいが絶滅していると推定されている。このまま行けば地球は限界に激突し、破局を迎えるのは間違いない。
今回のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書は、2つのことがほぼ科学的に実証された、と結論づけている。地球の年平均表面気温が上昇していることと、過去50年間の急速な温暖化の主要原因は、人為起源の温室効果ガスの排出であるということだ。事実、世界のCO2濃度は毎年、上昇しつつある。問題は毎年どのくらい上昇しているかだが、IPCC報告によると過去10年間で年平均1.9ppm増えている。1ppmというのは、CO2の量にして80億トンなので、毎年、152億トンのCO2が大気中に蓄積されていることになる。
気候変動枠組条約の京都議定書というのは、1991年の先進国全体の温室効果ガスの年間排出量を5.2%削減するということだから、約10億トン減らすということだ。日本は既に7,540万トン増やしているから、1億5,000万トン減らさなければならない。先進国全体では9億4,800万トン減らさなければならないが、米国が離脱しているから5億から6億トンくらいになっている。
しかしながら、CO2だけで年間152億トンも蓄積されている現状で、温室効果ガスを10億トン削減ということは、全く焼け石に水になっている。京都議定書は役に立たない。もっと徹底的な削減が必要ということだ。
地球の表面温度が上がっていくと、2種類のインパクトが生じる。連続的に温暖化の影響が出るものと、非連続的、非可逆的、破局的な現象が起きるものと2つあると考えられている。何度上がると何が起こるかということについてもかなり研究が行われているが、グローバルなコンセンサスが得られているものは少ない。普通に言われていることは、1.5℃上がると、グリーンランドの氷床の全面融解が始まり、100万種類の生物種が2050年までに絶滅する。2℃を突破すると数十億人が気象災害に遭う。3℃を突破するとコントロールができなくなり気候の崩壊が起こる、といわれている。
産業革命以前に比べ、既に0.74℃気温が上昇している。いろいろな閾(しきい)値が提案されており、その閾値つまり臨界点を越えると地球の気候システムのサブ(局所的)システムが崩壊し、全面的な転換が起きると考えられている。
人類全体が、このポイント・オブ・ノーリターンを越えたかどうかが大きな問題で、ジェームズ・ラブロック(編集者注:ガイア理論で知られる英国人科学者)は、ポイント・オブ・ノーリターンを既に越え、今世紀中に人類に大量の犠牲者が出ると言って、昨年1月、「ガイアの復讐」という本を出した。
IPCCの報告書は、コンセンサスドキュメントだから、最悪のシナリオについてはあまり明確に書いてない。日本国内では、2℃を突破すると大変なことになるという認識があまりないので、昨年「気候変動+2℃」という本を出し、日本の研究者の研究を具体的に紹介した。さらに先月、「温暖化地獄」という本を出し、地獄は50年後とか21世紀の末にあるのではなく、既に地獄だ。地獄からいかに脱出するかにわれわれは全力を挙げなければならない、ということを書いた。
当サイトの過去の関連記事 インタビュー・山本良一氏「持続可能な社会目指して」
第1回 2006年12月27日【だれも全貌を知らない恐怖】
第2回 2007年 1月9日【民主主義の土台に金が使われてない】
第3回 2007年 1月16日【市民のための科学技術に】
第4回 2007年 1月23日【マテリアルリスクにも国際的取り組みを】
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山本 良一 氏のプロフィール: |
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1969年東京大学工学部冶金学科卒業、74年同大学院博士課程修了、89年同先端科学技術センター教授、2001年同国際・産学共同研究センター長などを経て、04年から現職。環境への影響に配慮した材料、エコマテリアルの概念を提唱するなど、早くから環境負荷の小さな社会への転換を唱えてきた。ISO/TC207/SC3(環境ラベル)日本国内委員会委員長など社会的な活動は多方面にわたる。01年度にスタートした科学技術振興機構社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」の研究総括も務める。 |
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