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2007年11月11日

◎宇出津港のと寒ぶり ブランド競争力が知名度上げる

 能登町宇出津港で揚がった寒ブリを「宇出津港のと寒ぶり」とする商標登録が認められ た。県漁協能都支所が特許庁に出願していたもので、日本海沿岸各地で呼称が異なるズワイガニと同様、ブリでも氷見と能登でブランド競争が激しさを増すだろう。

 鮮魚のブランド化は低迷する魚価を高める切り札と言え、ブランド化された魚を通じて 、その土地の知名度が上がり、交流人口の拡大も期待できる。創意工夫を凝らした競い合いによって、この地域のブリの価値をさらに高めてもらいたい。

 ブリと言えば全国的には氷見ブリが有名で、通常のブリより高値で取り引きされている 。能登で水揚げされたブリでもブランド価値を求めて氷見市場へ運ばれるケースも多いという。能都支所が独自の名称で商標登録を出願したのは、同じ漁場で獲れながら、市場価格でまさっている氷見ブリに対抗する狙いがある。

 とは言っても、名称が商標登録されると知名度が自然に上がっていくわけではない。ブ ランド化に向けた勝負はまさにこれからである。

 一九九六年に鮮魚として初めて商標登録が認められた大分県の「関さば」「関あじ」は 品質保持の努力は言うまでもなく、一本釣りという漁法の特徴や、潮流が早くて身が引き締まるという漁場環境などをアピールし、他の地域のサバやアジとの差別化を徹底的に図ったことで大衆魚のイメージを塗り替えた。

 氷見ブリの知名度が高まったのも、同じように富山湾という自然や定置網漁法の醍醐味 を組み合わせて付加価値を高めてきたからだろう。それに比べれば、能登では魚を売り出すブランド戦略が後手に回った印象は否めない。

 能都支所では二〇〇四年からブリに「のと寒ぶり」のタグをつけて出荷したり、「寒ぶ りまつり」などを開催してきたが、料理法などを含めて幅広く発信していく必要がある。県と奥能登二市二町が考案中の「能登丼」を通じてもアピールできるだろう。

 地名を冠した魚のブランド化は、その土地の魅力が加わってこそ発信力が強まる。その 意味では地域挙げての総力戦と言ってよい。高く売れる魚づくりは、漁業の担い手を確保するうえでも大事なことである。

◎心配なパキスタン つぶせない対テロ最前線

 国際治安支援部隊(ISAF)とタリバンとの戦闘が激化しているアフガニスタンと国 境を接することなどから、パキスタンは「テロとの戦いの最前線の国」あるいは「米国の対テロ戦略の橋頭堡(きょうとうほ)」といわれる。そのパキスタンの政情が不安の度を加えているのが心配だ。分裂して国家としての機能を失うような事態に陥ると、テロリストの横行を招く。旧ソ連の崩壊以上に国際社会への影響が大きいとの指摘もある。

 つぶすわけにはいかない国だが、危うい国情だ。陸軍参謀長を兼ねながら大統領に再選 されたムシャラフ氏が率いる政府。その大統領に参謀長兼務をやめることや、総選挙の早期実施を求めている野党勢力。さらにタリバンと通じているとされるイスラム過激派が国境地帯を中心に政府軍に頑強に歯向かっている。

 こうした中で、ムシャラフ大統領はテロ対策や民主化が妨害されているとして非常事態 を宣言、憲法を停止し、上級判事を相次いで更迭したほか、野党指導者らの封じ込めに乗り出した。

 米中枢同時テロを機に、ムシャラフ大統領を後押ししているブッシュ米大統領は事態を 重くみて電話でムシャラフ大統領に軍籍離脱や、総選挙の早期実施など民主主義を後退させぬようあらためて求めた。

 日本にとっても大事な国だ。パキスタンは、日本を、欧米の文化を取り入れながらも固 有の文化を持ち続けている点で模範にしたいと高く評価しているといわれる。多くの家庭の電気製品は日本製だし、街では日本車が多いなど親日的だ。日本からの援助は八番目に多い。

 パキスタンは第二次世界大戦直後、インドとともに英領から独立し、穏健で民主的なイ スラムの国づくりを目指してきたのだが、カシミールの帰属をめぐってインドと三度も戦い、軍事力を増強し、インドに対抗して核兵器まで持つようになり、文民政治の混乱、選挙による政権交代、クーデターによる軍政の登場を繰り返してきた。軍と官僚が実権を握っている点で近代的な国家としては未熟で、お世辞でも「半分民主主義」とでもいうような状態だが、日本もムシャラフ大統領に対する説得に参加しなければなるまい。


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