SF作家オモロ大放談
70年代の日本のSF作家の座談集本が出てきて、皆、仲良さげで微笑ましいのだが、言ってる内容は滅茶苦茶で今だとちょっと問題になりそうなコトでも平気で喋ってて面白い。
ウチのブログ向けの話題として、小松左京、星新一、筒井康隆の3人がカニバリズムについて話してる部分を抜き書き。
食物としての人間の自己完結性
筒井 まあ、最近世界各地でたくさん飢えて死んでますね。あれ、ひとまとめにして埋めときゃ石油になるのかな(笑)。
小松 そんなに早く石油になるもんか(笑)。まったくもう、血も涙もないな(笑)。
筒井 ともかくね、人間が死んでそのままというのがもったいないんですよ。死にかけてるのを日本へつれてくればね、古々米はいっぱいあるし、残りものでもなんでも食わせてやれば大きな労働力に(笑)。
小松 ひどいことを(笑)。ヒューマニズムのかけもらないな(笑)。
星 しかし、本人たちにしてみれば、飢え死にするよりはその方がいいかもしれんぞ。
小松 でも、今度はうじゃうじゃふえたらどうする(笑)。まあアメリカ中産階級という、世界的にはひどく生活程度高いところでヒューマニズムの水準ができちゃったからいかんのだな。あれをとっぱらった方がいいかもしれんな。
星 ただし、日本へそういった人たちをつれてくるのは、安い労働力だというので労働組合が反発するだろうな。まあ、アメリカにおける日本人排斥みたいに。
小松 今、オーストラリアがまさにそうなんだね。自分たちの仕事がなくなる。
筒井 だってね、今、地球上でいちばん多い生物は人間ですよ。それをあなた、全部火葬にしてたら将来石油が(笑)。
小松 まだ言ってるよ(笑)。血も涙もない。
筒井 でも、死体は生態系の一環だもの。
星 そうか。石油からでも動物性蛋白は、とれることはとれるんだ。
小松 死体を燃やすと燃料費食うから、土葬にして、墓場の下にだね、有機分解物を吸い取る装置をつけてね。それから埋めたやつをなるべく早く腐らせるように、室に入れて、藁でくるんで・・・・・・。まるで納豆だな(笑)。
星 まあ、モグラを家畜にすれば・・・・・・(笑)。
小松 あなた不思議にモグラが好きだね(笑)。
筒井 それにあれはまあ、完全に地中で死にますわね(笑)。
小松 死体はね、むしろ食えばいいんだよ。一回アミノ酸に分解すりゃいいんだ(笑)。
星 消化もいいに違いないな(笑)。
筒井 そりゃ、いいですよ。同じ人間だもの(笑)。
小松 だけど、ぼくは思うんだがね、人間ってのは気が短いから、ま、この気が短いというのが人間の最大の悪徳だとぼくは思うんだがね(笑)。つまり、このひとが年をとって死んだら分解してバクテリアでアミノ酸とかにして、そうなれば自分の腹に入れることができるんだと、そう思って待ちゃあいいが、これが待てない(笑)。面倒臭せえから今食っちゃおうという気になって、日本人なんかついに「人間のオドリ食い」を食う(笑)。それがいけない。だから現在の人口三十七、八億か、これだけいりゃあ、長いサイクルでケチケチまわしてりゃ、なんとか食えるはずだね(笑)。
星 墓を掘るなんて、意味ないわけよ。問題は結局、DNAかRNAでしょ。あれをちょっとだけ記念として保存しておきゃあ、まあその方にずっと価値があるわけよね。
筒井 そうだ、星さんが「小説推理」に書いてたクローン人間の話ね。あれにしても結局、自分のクローン人間を作って、それを食っていりゃあ(笑)。
星 消化はいいですよ。自分だものな(笑)。
小松 いや、クローン人間までいかなくても、自分の太った分の脂肪をとって分解して食えばいいんだろ。おふくろの乳のかわりに子供を養える(笑)。そうだ。ぼくなんか、だいぶ子供を養えるぞ。腹の脂肪を、脂肪になる前に上手にやればさ、これだってアミノ酸いっぱい入ってるんだもんね(笑)。「ソイレント・グリーン」って映画あっただろ。あれ、おれたちSF作家が見てもちっともショックじゃないだろ。それが未来ではヒューマニズムだってことを、われわれ知ってるからね。
筒井 われわれは人間も生態系のひとつとして考えてるけど、ふつうの人は生態系を、人間抜きにして考えている。あれ、いかんわな。
小松 ぼくだったらあの結末は、ソイレント・グリーンが人間だとわかったところからまだ発展して、真相を知った連中が皆喜んで、今度は人間のオドリが食いたいといいはじめる(笑)、ということにすればちょっとショックだろうな。
筒井 ぼくも、あの結末を話の最初に持ってきますね。まず、人間を食ってるという前提があり、それに反対しているひとかたまりの保守的な頭の悪い連中がいて、こいつらが反乱を起こすので、いかにしてこいつらをやっつけるかという(笑)。
小松 食性ってのは保守的なんだ、たとえばうちのおふくろなんか、いまだに肉食わないんだ。それから生卵ぜんぜんだめ。ウナギもだめだったんだけど、戦争中から食うようにになった。イチゴがだめで牛乳がだめ(笑)。食うと戻しちゃって、熱を出すんだ、
星 よくスローガンで、血液を輸血のために献血しましょうとか、眼球をアイバンクに登録しましょうなんてあるよな。あれと同じことよ。死んだら肉を(笑)。
小松 同じだよ。あとで食われるんだと思えば、おれなんか自分ひとり太ってるけど、その方が何のうしろめたさも感じないで、もっと太れるしな(笑)。そうなると、あとで自分を食う人のために、なるべくおいしいものにしてやろうと思って、一生懸命ビールを飲み(笑)。
星 焼酎でマッサージをして(笑)。
小松 いいシモフリができるわな(笑)。
筒井 戦争中のことを考えれば、うまいとかまずいとかは第二、第三の条件だったでしょ。
小松 そうだ。味なんて、石油蛋白にしたって、実際、淡泊なもんでね(笑)。蛋白っての、味もなんにもないのね。舐めてみたことあるけど、粉だもんね。あれに比べりゃ、人間の方がずっとうまいだろう(笑)。
筒井 そりゃもう、うまいに決まってるんだもんね。ぼくなんか想像しただけで。
小松 よだれを出してるぞ(笑)。
星 まあ、消化はいいと思うんだなあ(笑)。
筒井 星さんは消化のことばかり言ってる(笑)。
小松 ひとつ問題があるのはね、そこでやっぱりヒューマニズムが踏んばらなきゃいけないのは、死んだら食ってもいい、しかし生きてる人間をぶっ殺して食うのはいかん、つまり食う人間と、食われるための人間とを作っちゃいけない、ここを頑張らなくちゃいかん。
筒井 しかし、食われるためのクローン人間を作った場合は、しかたないでしょう。
小松 クローン人間ができるのはまだまだだから、むしろヴァン・ヴォクトの『虎よ虎よ』に出てきた、ニワトリの肉の組織培養、あの方が簡単だろ。
星 そんなら、たとえばガンだって、どんどん作っちゃ切り、作っちゃ切りして食えばいいんだな(笑)。
筒井 あれ、食っても大丈夫かな。
小松 一応、焼いて蛋白として食やあ、なんにもねえだろ。ガンのオドリ食いってのはよくないけどね(笑)。
筒井 いやあ、どうせなら、ナマのまま塩もみして、酢のものにして食えば(笑)。
小松 ばか、ばか、やっぱりサッと湯通しぐらいはしろ(笑)。
星 人間を食ってはいかんというのは、今、野坂が「四畳半裁判」にかかってるけど、あれと同じだろ。結局もとは(笑)。人間食ってなぜ悪い。
小松 そうなんだ。この問題、とにかく意識の上で突破しなきゃな。不思議な思想だけど、こういのがあるんだ。紀元前七世紀、ソロアスターが、最後の審判、つまり最終戦争みたいなものがあって、そのあと人間は復活する、そういう思想を出した。その復活する時にボデーがないと大変である(笑)。その前にも、エジプトでも同じ思想が出てる。それで死体を損壊したらいけないということになったんだな。一方じゃラマ教か何かの風葬みたいに、死体を鳥に食わせるというもやつあるが、これだとエコロジカルサイクルに入ってくる。とにかく、焼くってのがいちばんいかんよ。炭酸ガスになるだけだ(笑)。
星 焼くだけのエネルギーもいるしな(笑)。
筒井 ガンだけじゃなく、昔からナンセンスの世界では、いっぱいやってるんですよ。杉浦茂の漫画なんかじゃ、腹減った時に、侍が、自分の頭たたいてコブ出して、そのコブ食ってる(笑)。あおの思想でしょ。
小松 どこかの組織を増殖させれば、食うものはたくさんあるな。魚の目の三杯酢とかさ(笑)。爪だって食えるぞ(笑)。
筒井 新大阪駅でよく見かける人なんだけどね、頬のここんとこにタコヤキぐらいのコブをいっぱい、鈴なりにした人がいるの。あれ、何だろうね。うまそうなんだが・・・・・・(笑)。
小松 皮膚の異常だろうね、やっぱり。良性の腫瘍でしょ。
星 人工的にこのへんに(肩に手をあて)作ってな。こうやって食えばいい(笑)。
小松 米朝さんの「こぶ弁慶」じゃないか(笑)。
星 日本人、いちばんやりやすいだろうな。そういうの。
小松 根本的にタブーがないからな。
筒井 でも「いんなあとりっぷ」には載せにくいだろうなあこの話(笑)。
小松 ミイラ見たけどね、うまそうなんだな、これが(笑)。日本人だろ、われわれ。削って食ったらカツオブシと同じじゃないか、いいダシが出るだろうという気が(笑)。それで家に帰ってメザシ見たんだな。目が、こうあいてらあな(笑)。ミイラだろ。保存食だしさ。あれ食っていいんならミイラだって(笑)。いや、そりゃ好き好きですよ。あんなになるまで待たなくても、生干しの好きな人はオロシでもかけて(笑)。
星 堕胎した胎児も、ずいぶんもったいないわな(笑)。
小松 そうだ。日本は堕胎王国だものね(笑)。おろしては食い、おろしては食い(笑)。
筒井 それを売って「おろし金」というものを貯めて大儲けする(笑)。
小松 大根おろしとまちがえてる(笑)。
星 あと現実問題として、病気で死んだやつがいるわな(笑)。なんとなく食欲が起こらねえな(笑)。
小松 それは消毒すればいいのです(笑)。そもそも肉食うってのは、動物の世界でも、病気したやつ、怪我したやつ食うのが本流でね、サメってのは魚を食うんだけど、アジの群れの中へ行っても、それ自身サメになんの食欲も起こさせない。ところがその中で、仲間うちの内ゲバで怪我したアジがいて、それがこうヒクヒク(痙攣してみせる)とやると、それが死のサインだというのでサメを興奮させ、はじめて襲いかかる。
筒井 われわれがレア食ってうまいと思うのもそれでしょ。あの、血のしたたってるのがうまい(笑)。
小松 サイクルとしては、人間の屎尿を撒いて、カキが太っている。ああいうのもあるし。
星 ピラニア食うのはどうだ。まず人間をピラニアに食わせて(笑)。太ったピラニアを食えば、直接人間を食うよりは、良心の疼きも感じないですむわな(笑)。
小松 (ソバを食いながら)うまいなあ(笑)。こういうソバだってね、たとえばインドとかの開発途上国、蛔虫が多いだろ(笑)。あれ虫下しのませておろしてね、産業として輸出して食うようになれば(笑)、アッという間にいなくなる。ソバとたいして味は違わねえと思うよ(笑)。
筒井 だいたい、ウンコを蛔虫に食わせてるの、もったいないですよ(笑)。
小松 うん、ずいぶん栄養が残ってるもんな(笑)。食えるな、あれも(笑)。
筒井 ウンコの形をしてるから食いにくいわけでね。だから大便する時、尻に金網あててやれば、ソバみたいなのがワッと盛りあがるでしょ(笑)。あれなら多少、食う気が起こります(笑)。
—— 間。三人食い続ける ——
小松 こんな話しながらでも、なんとも思わず食えるってのは、われわれやっぱり、未来に適応してるのかあ(笑)。
星 だって、結局、宇宙旅行の時には回収した排泄物をクロレラに。
小松 そうだ。クロレラにまわすんだ。
筒井 (記者に)なんか、でも、悪いことしたなあ。あなたあとで一人、どこかへ食いに行かないと。
小松 吐きそうな顔してるぞ。
星 その反吐がもったいない(笑)。
小松 あと、人間の蛋白質の中で比較的だめなのはザーメンね(笑)。あれ、昔、友達なんかと、あんまり食うものがないんで、オナニーをしちゃ精液いためて食ってたのよ(笑)。苦くてさ。ぜんぜんうまくない(笑)。
筒井 あれは、いためてはいけません。そのまま食うのです(笑)。だいたい女は尺八の時あれを飲むでしょう(笑)。
星 ぼくはまあ大学のとき、終戦直後でさ。何も食うものがないんで、なんとかしようってんで、木材を、つまりセルロースを分解して糖分にするなんてことを研究したわけだが、木材は食えるんだな。糖分はできるし、アルコールもできるわけだな。食料危機になっても、床柱を切りゃあ、まあ、原理的には結局食えるわけだな。
筒井 屋根が落ちませんか。
星 まあ、家はつぶれるかもしれんが。
小松 ワハハハハハ。ワハハハハハハハハハ。
筒井 小松さんとうとう気が狂ったぞ(笑)。
星 昔、凶作の時なんか、木の芽、草の根とりに山の中に入って、森の中で死んだ、なんていうけどさ、考えてみりゃ食いものにかこまれて死んじゃった(笑)。日本なんてのは、飛行機から見ると山また山。全部森林で、食いものの山なんだな。だから、日本列島で飢え死にしたりしたら、後世の人が・・・・・・。
小松 ばかにするだろうなあ(笑)。筒井さん、蚕のサナギって食わなかった?
星 戦争中食ったよ。
小松 あれ、ものすごく臭いけど、おいしいよ。
筒井 養蚕してるところで、サナギがいっぱい出るわけですか?
小松 出るわけ。これ、捨てたり肥料にしたりしてたけど、その地方の子はおやつに食べてたんだ。一町ぐらい臭いするけど、ポクポクしておいしいの。醤油につけて焼いたりね。
筒井 蜂の子みたいに、甘くはないわけね?
小松 うん。
筒井 あれ、可愛いですよねえ(笑)
星 だからわれわれは食べる時、どうしてもイメージにとらわれるんだ、外見上の。
筒井 そう。うまい、まずいは二の次、三の次じゃないですかね。やはり可愛い・・・・・・。
小松 人間を食う場合、行儀を考えなきゃいけないのよ。つまり、生きて動いている人間を、うまそうだと思ってはいけませんという(笑)。いくら可愛くても(笑)。
星 だけど、われわれ牛を見て食欲感じるかというと、感じないわな。
小松 日本人はそうです。だけど牧畜民族はね、乳牛と肉牛を分けて見るんだね。肉牛を見るともう、よだれを垂らさんばかり(笑)、それで、可愛いっていうの。あまり可愛いから食っちまう(笑)。
筒井 星野さんの肉は食えるな。可愛いから(笑)。
小松 SF作家はさ、昨日死んだ友達のお通夜へ行きながら、ひどいこと言ったりするじゃないか。だから星さんの肉、食えるよ。「星さん、どこまで行ったかなあ」なんて言いながら(笑)。「星さん。ありがとうございました。」なんて(笑)。
筒井 トモさん(SF作家の故・大伴昌司)の肉、惜しいことしたなあ(笑)。
星 広瀬正の方が、もっともったいない(笑)。あれはよく太っていたよね(笑)。
筒井 でも人間の場合、やはり多少は精神的なものがあるから、誰でもってわけにはいかんでしょ。だってあなた、たとえば山野浩一の肉、食えますか。ぼくは食えないよ(笑)。だって星さんなら。
小松 そうだ。星さんの肉を食えば、頭がよくなるという気がするけど(笑)。
筒井 そうです。あっちを食えば悪くなる(笑)。だから信仰心も必要なんですね。初出「いんなあとりっぷ」いんなあとりっぷ社 1975年3月号
「SF作家オモロ大放談」小松左京・筒井康隆・星新一・大伴昌司・平井和正・矢野徹・石川喬司・豊田有恒著 いんなあとりっぷ社 1976年
文中で小松左京が「虎よ、虎よ!」がヴァン・ヴォークトの作としてるけれど、これは小松左京の勘違いで、正しくはアルフレッド・ベスターの作。最後に出てくる山野浩一は「X電車で行こう」などで知られる作家。当時、SFのニューウェーブ運動の旗手として旧来のSFと対立してたせいか、この本の中でいろいろ悪口を言われてる。あと、小松左京は引用部分でも自分の精液を炒めた食ったという話をしてるけれど、他にも自分の鼻毛や垢、日焼けで剥けた皮などを収集してた話とかしててそうとう変だ。
Nov 11, 2007 1:07:38 AM | Permalink
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Comments
面白かったぁ(^O^)アッという間に読んじゃいましたヨ
対談中のお三方の様子が目に浮かぶようですワ♪
Posted by: ひきゃる♪ | 2007.11.11 11:08 午前