西野神社 社務日誌

2007-11-10 便所神

今日は、「11(いい)10(ト)イレ」という語呂から、「トイレの日」の日とされています。昭和61年に日本トイレ協会が制定した記念日なのだそうです。「トイレの日」である事に因み、今日はトイレ(便所)の神様についてお話させて頂きます。

水の神様、火の神様、かまどの神様(荒神様)など、日本の家の中には沢山の神様がおられますが、便所の神様も日本では古くから信仰を集めてきた神様で、便所を特別な場所として信仰する習慣は、かつては全国各地で見られました。

現在の便所はそのほとんどが清潔な水洗式ですが、昔の便所は母屋とは別になっていて、暗くて汚い場所であり、そして、万一足を滑らせて地中深くに埋め込まれた便壺に落ちてしまうと、時には命を落とす事もある、危険な場所でもありました。便所は、こうした暗さ、恐ろしさ、不浄、といった“陰”の観念と結び付いた特別な場所であるが故に、便所は、単に排泄の用を足すだけの場所ではなく、この世とあの世とを行き来できる特殊な空間と考えられ、便所には神様がお祀りされたのです。便所神は、地方によっては厠(かわや)神、雪隠(せっちん)様、センチ神などとも呼ばれています。

しかし、便所神が全国的に広くお祀りされていたとはいっても、そのお祀りの仕方は地方によって様々でした。例えば、便所を新たに作る際に男女一対(夫婦)の紙人形を便壺の下に埋めて魔除けにするという地方もあれば、便所の中に神棚を設けて御神体となる人形を入れてお祀りする地方もあり、また、神社やお寺から便所神の幣束を貰ってきて便所にお祀りしたり、お餅や、鶏が描された絵馬を便所にお供えしたり、灯明をあげて花や線香を便所にお供えするといった地方もあります。

関東地方長野県東部、福島県南部などでは、赤ちゃんを初めて外に出す時に「便所参り」をする習俗もあります。生まれて間もない赤ちゃんは、あの世のものともこの世のものとも判断がつかない未成熟な存在なので、祖母もしくは産婆が、生後7日目頃の赤ちゃんを、様々な穀物の生命力の源である糞尿のある場所に連れて行き、この世のものとして安定した存在になるよう、そしてその赤ちゃんが健やかに成長するよう、便所神に米や御神酒をお供えして祈るのです。ちなみに、糞尿を農業用の堆肥として蓄積するという方法は日本以外ではあまり見られず、日本で便所神が大切にされてきた理由には、「便所は農業生産と直結する場所」と考えられてきた背景もあったのです。

また、便所神は出産とも深い関わりを持っています。妊婦が便所を常に清潔に保つよう心がけ、便所神をお祀りしていれば、「お産が楽になる」「美しい子供を授かる」「強い子供が生まれる」という信仰も全国各地で見られ、こういった信仰は便所が出産と結びついていた事を示しています。便所という汚い所に祀られながらも美しい子供を授けるので、便所神は盲目であるという言い伝えもありました。また、便所の軒下は胞衣(胎児を包んでいた膜や胎盤など)の埋め場所としても使われていました。

このように、便所神のお祀りの仕方は各地で様々なのですが、その御利益はほとんど共通しており、「子授け」「安産」「生まれた子供の健やかな成長」が代表的な御利益とされ、下の病(性病や婦人病など)にも御利益があると云われています。

(田頭)

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