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社説

2007年11月10日(土曜日)付

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延長国会―「ねじれ」生かして成果を

 それにしても波乱続きの国会である。

 安倍首相のいきなりの辞任、福田首相の誕生、「大連立」騒ぎ、小沢民主党代表の辞意表明、そして撤回。合間には自民党総裁選もあった。

 法案はまだ1本しか成立していない。

 国会の会期が12月15日まで延長されることになったが、これからは落ち着いた審議で政治を前に進めることを望む。

 この臨時国会は、夏の参院選で自民党が惨敗し、民主党が参院の多数を握ってから初の本格的な論戦の舞台である。

 それだけに、与野党ともに肩に力が入りすぎていたかもしれない。衆参の多数派が逆転したなかで、どう合意を見いだすか。新しい国会のあり方を手探りしなければならなかったし、同時に総選挙をにらんでの思惑や主導権争いが絡む。

 今後はお互い、少し肩の力を抜いてはどうか。主張が重なるテーマや国民生活に直結する緊急課題では、政策の実現を最優先に法案修正の話し合いを重ねる。賢い妥協の技術を磨くことだ。

 与党が両院の多数を占める国会では、審議が形骸化(けいがいか)しがちだ。「ねじれ国会」だからこそ、透明性と緊張感が高まり、より中身の濃い議論が可能になる。

 与野党の談合に陥らず、しかし対立を乗り越えて政策を実現していくには創意工夫がいる。有識者でつくる21世紀臨調が提言した「小委員会」制度の活用もひとつのアイデアだろう。

 両院で実質的な審議を担う委員会は、その下に小委員会を設けることができる。数十人で構成する親委員会に対し、小委員会は少人数だし、慣例に縛られずに集まれる。本音をさらしながら妥協をつくるには、格好の舞台になりうる。

 ただ、国会はこれからも波乱含みの展開が続きそうだ。最大の焦点は、インド洋での海上自衛隊の給油活動を再開するための新法の扱いだ。

 政府与党は新法を延長国会の最優先課題に掲げるが、民主党代表にとどまった小沢氏は政府案への反対を改めて強調した。参院に法案が送られれば、否決された場合の「衆院での3分の2による再議決」の可能性が浮上し、国会は終盤に向けて緊迫の度を増すに違いない。

 イラク作戦への給油転用問題や防衛省による隠蔽(いんぺい)疑惑は晴れない。そんな中で前防衛事務次官に接待攻勢をかけていた軍需商社の元専務が逮捕された。防衛利権をめぐる疑惑が膨らんでいる。

 国会も、証人喚問などで疑惑の解明に取り組まねばならない。とはいえ、対アフガニスタン支援はどうあるべきか、民主党が示した対案も含めて、冷静な議論を忘れてもらっては困る。

 「政治とカネ」を透明にするための政治資金規正法の改正をはじめ、この国会で実現すべき懸案は少なくないのだ。

 対決の可能性をはらみつつ、政策の面で具体的な成果をどれだけ生み出せるか。対決一色では与野党とも国民に対する責任を果たしたことにはならない。

「大連立」仲介―読売で真実を読みたい

 自民党と民主党が大連立する。そんな驚くべき話が飛び出した先の党首会談の、段取りをつけたのは誰なのか。

 小沢民主党代表は、辞意撤回の記者会見で「さる人」から話を持ちかけられたと明かした。続いて、その人物に勧められて「福田首相の代理の人」と会い、党首会談が実現したという。

 小沢氏は名を明かさなかったが、どうやら「さる人」とは読売新聞グループ本社会長で主筆の渡辺恒雄氏であるらしい。朝日新聞を含め、読売新聞を除く多くのメディアがそう報じている。

 首相と野党第1党の党首の間をとりもち、会談や「大連立」話を仲介したのが事実とすれば、報道機関のトップとして節度を越えているのではないか。

 渡辺氏が主筆として率いる読売新聞は、参院選後の8月の社説で自民、民主両党に対し、大連立に踏み切るよう主張した。新聞が政治の現況を論じ、進むべき道について信じるところを述べるのは言論機関として当然のことだ。

 政治家に直接会って、意見を言うこともあるだろう。権力者に肉薄するためふところに飛び込むのも、記者の取材手法としてあっておかしくない。

 だが、それはあくまで主張を広め、あるいは事実を報道するためのはずだ。主張を実現させるために党首の会談を働きかけたり、ひそかに舞台を整えたりしたのなら行きすぎである。

 渡辺氏はかつて新聞協会長をつとめるなど、日本の新聞界を代表する重鎮だ。1000万部の読売新聞の経営だけでなく、社会への功績が評価されて今年、同協会から新聞文化賞を贈られた。

 同時に、若いころから敏腕の政治記者として鳴らし、中曽根元首相をはじめ政財界に幅広い人脈を持つ。

 渡辺氏の回顧録などを読むと、昔から権力者に食い込むだけでなく、プレーヤーとして政治を動かしてきたエピソードがふんだんに語られている。

 渡辺氏の回想には昔の政界裏話のおもしろさが満ちてはいるが、取材対象とほとんど一体となって行動する姿に、違和感を覚える読者は多いに違いない。

 事実を伝える記者が、裏では事実をつくる側に回ってしまう。それでは報道や論評の公正さが疑われても仕方ない。

 報道する者としての一線を守りつつ、いかに肉薄するか。多くの記者は、政治家ら取材対象との距離の取り方に神経を使っている。だれもが似たようなことをしていると思われたら迷惑だ。

 読売新聞は、大連立を提案したのは小沢氏だったと大きく報じた。小沢氏が「事実無根」と抗議すると、今度は小沢氏に「自ら真実を語れ」と求めた。

 その一方で、同紙は仲介者については報じていないに等しい。一連の経緯にはなお不明な部分が多い。だれよりも真実に近い情報を握っているのは読売新聞ではないのか。読者の知る権利に応えるためにも、真実の報道を期待したい。

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