▽行政・住民、危機感共有を
山口県内の小児科救急を担う現場が、悲鳴を上げている。集中する時間外や休日診療に、初期救急の時間外受け入れを止めた病院もある。過酷な労働実態に、小児科を志願する勤務医は減るばかり。医師たちは「崩壊寸前」と訴える。病院、医師会だけでなく、行政や住民も同じ認識に立ち、医療機関が存続できるような協力が欠かせない。(高橋清子)
「あすにも辞める先生が出てもおかしくない」。三次救急指定の独立行政法人国立病院機構岩国医療センター(岩国市)で、小児科の守分正・成育診療部長が打ち明けた。
小児科医が常駐する二次救急の病院が近くにないうえ、県境をまたいだ広島県西部から周南市までの広域エリアを、常勤の小児科医六人でカバーする。
外来患者は一日六十〜八十人。昨年度の救急外来は八千六百七十人で、うち時間外、休日診療が八割超だった。医師は当直や呼び出し待機で、月の三分の一以上の夜間を拘束されているという。
守分部長は「本来なら救急専属のスタッフが必要だ。外来や入院患者も抱えて毎日、八人分の仕事量をこなす状態。疲労から診療の質が落ちないよう、神経をすり減らしている」と訴えた。
国の二〇〇四年の調査で、県内の小児科の勤務医は八十二人。一病院当たりは一・六四人で、全国平均に比べ〇・九三人少ない。県内で小児科医は増えているが、開業医が中心。勤務医は公募しても敬遠され、確保は厳しい。国の調べでは、十五歳未満の外来患者は〇二年の一日六千九百人が、〇五年には七千六百人と増えた。
時間外を中止
二次救急指定の山口赤十字病院(山口市)の小児科は、四月から時間外の初期救急をやめた。常勤医が一人減り、同じ医療圏の二次救急病院が小児科の時間外と入院診療を中止。急激な負担を回避する措置である。
同病院の時間外の患者は〇五年度、約八千六百人。十年前の倍だった。軽症でも「昼間は仕事だから」とコンビニ感覚で子どもを連れてくる親が目立つという。大淵典子・小児科第一部長は「重症を見逃してはと、頑張ってきたが限界」と現場の声を代弁する。
山口市は、初期救急を担う市休日・夜間診療所の小児科医の当番日を四月から、週二回から四回に増やして支援する。しかし、午後十時までで、インフルエンザ流行期を前に不安はぬぐえない。
大淵部長は「マンパワーが足りないなら、行政や医師会の枠を超えた広域救急システムの確立が急務」と提案する。
「県は啓発を」
二次救急を担う周東総合病院(柳井市)は昨年五月、派遣医師の引き揚げに伴う小児科存続の危機に直面した。〇九年四月まで小児科医二人を山口大と県立総合医療センターから派遣を受けて乗り越えた。
しかし、今後、医師を確保できる保障はない。柳井市など一市三町は十二月から、医師会と協力して休日夜間応急診療所を開設。病院への患者集中を避ける体制をつくる。
県医師会の藤原淳会長は「各医療圏で開業医と病院が連携する体制を進めるが、速効性の解決策がないのも事実。県レベルで、小児科医の募集や症状に応じた受診の啓発を呼び掛けてほしい」と協力を期待する。
県は今月末にも、医師を地域の拠点病院に集める「集約化・重点化」計画の素案を示す。医師の一人は「少ない医師をどう集約するのか。行政は危機感を持ち、本気になって山口県に医師を呼び寄せる策を」と訴えた。
●クリック 救急医療体制
症状に応じて適切な医療が受けられるよう3段階の体制を取る。初期(一次)は軽症患者▽二次は入院を必要とする重症患者▽三次は、二次の医療機関で対応できない重篤患者。一次は在宅当番医制度や休日夜間急患センターなどで、二次は病院群輪番制で対応し、いずれも県内8医療圏ごとに整備する。三次は救命救急センターのある岩国医療センター(岩国市)、県立総合医療センター(防府市)、山口大付属病院(宇部市)、関門医療センター(下関市)の4カ所。小児救急も同様の体制だが、一次では休日や夜間などは小児科医以外の診察や、二次では隣接の医療圏の病院が対応するケースもある。
【写真説明】救命救急センターの診療室で、小児患者の母親に診察結果を説明する守分医師(岩国市の岩国医療センター)
|