ある高校の体育祭

タカシの高校の体育祭では、伝統的に男女混合騎馬戦がメインイベントとなっている。
なんと午後の2時間が全て男女混合騎馬戦というのであるから驚きである。
男女混合と言っても、男子だけでつくった騎馬、女子だけでつくった騎馬が一緒に戦うわけではなく、男女混合で一つ一つの騎馬をつくっていくのだ。
高校生ともなると、当然ではあるが、一般的に女子の方が体力で劣るので、女子に男子の馬をやらせるわけにはいかない。
また、男女では身長がつりあわないということから、男子が騎馬、女子が騎手を担当するのが伝統的なものとなっている。

タカシのクラスのホームルームでは、体育祭の種目のエントリーについて話し合われているところである。
午前の部の徒競走、リレー等の出場選手は立候補、推薦等であっさり決まった。
問題は午後の部の騎馬戦である。 学級委員のヒトエが言った。
「それでは今から午後の部の騎馬戦の出場選手についてなんですが、とりあえず馬役の男子は馬をつくる3人ずつに分かれてください。」
騎馬戦の馬は3人一組でつくられる。
騎馬は3人のチームワークがないと潰れてしまうので、仲のいい者同士が好まれる。
よって騎馬の3人は、とりあえずは男子に任せて組ませるのである。
元々決めてあったのか、男子が3人ずつに分かれるのはそれほど時間がかからなかった。

ヒトエが他の女子に向かって
「異議はありませんか?なければこれで騎馬を決定したいのですが」
すかさずシホリが手をあげて
「ケンジロウとリョウタの身長差が大きいので乗りにくいと思います。交代した方がいいと思います。」
と言った。
女子達に多数決をとったところ、賛成多数で、身長の低いリョウタが身長の高いタカシと交代することが決まった。
騎馬戦はあくまで女子が主役であるため、最終的な決定権は女子にあり、男子は文句を言えないのである。
ヒトエが言った。
「次に誰がどの馬に乗るか決めたいと思います。本年度、騎手になる方は前にでてじゃんけんをしてください。」
この高校では、男女の数がほぼ同数である。
騎馬3人に対して騎手は1人、つまり男子3人が女子1人に相当するため、どうしても騎手の女子が過多となってしまう。
だから女子が騎馬戦に出場できるのは3年に1回である。
男子は毎年出場し、それぞれ違う騎手に乗られることになる。
騎手になる女子達は前にでて、黄色い声をあげながら楽しそうにじゃんけんをしている。
馬になる男子は教室の隅の方で祈るような目でその様子をみている。
できれば背の低い軽い、優しい女の子の馬がいい。
背の高い重い女の子、騎手として厳しい女の子だとこれから1か月が地獄だ。
男子全員がそう思っている。

じゃんけんに一番で勝ったミナコは遠慮なく、背の高いタカシ、ケンジロウ、ユウタの3人の騎馬を選んだ。体格がよく脚が速い一番人気の馬である。
じゃんけんに勝った順に体格のいい馬、脚の速い馬が選ばれていく。
残念ながらじゃんけんで最後のほうになったメグミは、仕方なく、身長160cm程度の小柄な馬を選択していた。
ヒトエは言った。
「それではホームルームを終わります。尚、今日から体育の時間は全て騎馬戦の調教練習になります。また、登下校もできる限り騎馬に乗って行ってください。」

早速騎馬戦の練習が始まる。
ミナコはタカシらを呼び寄せ、騎馬を作らせた。
騎馬は前に一人、右後ろに一人、左後ろに一人である。
一般的に前の人が騎手の体重を最もうける位置であるので体が大きい人が好まれる。
「タカシは先頭をお願いね。」
ミナコの命でタカシが前の騎馬になった。
タカシは内心ショックだった。
馬の先頭は最も騎手の体重を受け、また騎手の意志通りに動かなければならない。
タカシがミナコの意志と少しでも違う動きをすると鞭が飛ぶのは容易に想像できる。
タカシら3人が膝をつき、ミナコを乗せるための神輿を作るとそれを見下ろしながらミナコが、
「高くて乗りにくいわ、もっと低くしてよ。」
と言い捨てた。
ミナコが少しでも乗りやすくなるように、タカシは前のめりになった。
もちろんタカシは先程に比べ不自然な格好になるため、ミナコが乗るとさらに辛くなるが、そんなことはミナコにはおかまいなしである。
ミナコが無造作にその豊満な尻を後馬の腕に乗せ、足を馬の手に乗せた。
もちろん靴をはいたままである。
さすがに人一人である。馬の3人は相当の重さを感じたが、持ち上げないと鞭をうたれるので急いで持ち上げた。
ミナコは満足げな顔で言った。
「お前ら、なかなか乗り心地いいわよ。ところでね、私はあまり鞭を使いたくないの。だってかわいそうだし、騎馬戦本番では鞭は使えない競技もあるからね。
だから、これからは馬に対する命令は私の声と股の締め具合で感じてほしいの。わかった?」
(股の締め具合?そんなのでミナコに命令を伝えられても分かるわけがない、こっちはお前の体重支えるので精一杯なんだ)
と思うやいなや、タカシの胸に鞭が飛んできた。
「返事は?」
「はい、わかりました。」
「よろしい。じゃあ馬なりで校庭一周よ、大事なのは騎手の乗り心地だからね」
「はい」
(痛い、いきなり鞭使ってるじゃないか、言ってることが違う)
そう思いながらもミナコの機嫌を損ねないために、タカシらは息を切らせて走り続けた。

このような感じで体育祭までの体育の時間は騎馬戦の練習と言う名の調教、いじめが行われる。
騎手である女の子たちは体育の間中楽しそう、というよりも男に跨る、男を支配する快楽に酔っている感がある。
一方、男子たちは哀れなもので、体育の時間中はもちろん、体育のある日はずっと浮かない顔をしている。
特に体育の時間の終盤、体力の限界を超えて、自分達の女騎手様を支える馬達の苦痛の顔にはもはや涙まで浮かんでいる。

当初、転校したてのケンジロウなどは、自分が密かに惚れていたミナコの尻や太股を支えることができ、仲良くなるきっかけもできるのだから、むしろ騎馬戦を楽しみにしており、なぜ他の男子がこんなにも騎馬戦を嫌がっているのか分からないでいた。
しかし、一日目の練習が始まると、馬の右後ろのケンジロウはミナコの尻の重みに左腕がしびれ感覚をなくし、右手のひらは靴の裏を支えているうちに擦り切れ、背中は鞭でぼろぼろになった。
(自分達男子3人がこんな目に会いながらもミナコを支えているのに、当のミナコは俺たちの上でジュースを飲みながら、同じく騎手であるシホリと馬を併走させて談笑している。
ミナコの気分一つで自分達は地獄の苦しみを味わう、ミナコもシホリも俺たちのことを馬としか思っていないのか)
そう感じたケンジロウは無念の気持ちでいっぱいであった。

体育祭練習月間中では、女子が男子騎馬に乗って登下校することが推奨されている。もちろん、体育祭の練習のためであるが、ここで問題が生じる。
騎馬戦は男子騎馬が3人に対して女子が1人であり、騎馬戦にでない女子も存在する。
すると、騎馬戦に出る女子が男子に跨って下校するのに対して、騎馬戦に出ない女子は徒歩である、などという  ことが起こり友達関係がぎくしゃくしてしまうことがある。
騎馬戦に出場する女子としない友達でかわりがわりに騎馬に乗るという解決法が一般的であったが、ヒトエは少し違っていた。
ヒトエはじゃんけんで5番目に勝ったわけであるが、中学時代から対立していたヨースケのいる馬を指名した。
ヒトエは中学時代も学級委員をまかせられていた。
学級委員といっても分厚いメガネに三つ網といった絵に描いたようなものではなく、成績だけでなくその美貌も学年トップクラスであり、男女共の支持を集めていた。
一方、ヨースケは一言で言うと不良であり、ことあるごとにホームルームにおけるクラスの決定や決まりごとに反発するタイプであり、ヒトエにとっては邪魔な存在であった。
ヨースケを馬に指名できたとき、ヒトエは学級委員として冷静に振舞っていたが、心の中ではほくそえんでいた。
(これで中学時代からの因縁にケリをつけられるわ、ヨースケの苦しむ顔が見て取れる、最高よ、フフフ)。

ヒトエは当然、ヨースケを一番苦しいであろう馬の前の部分に指名した。
ヒトエはヨースケに対し、馬上から執拗に鞭を入れたり、腰を蹴りあげたりといじめ続けたがヨースケは一言も発さない。無言の抵抗をしていた。

ところがある日、学級委員であるヒトエは、馬の上から、いつも一緒に帰っているキョウコに言った。
「キョウコも馬に乗ろうよ」
ヒトエは157cm45kgと比較的軽い方であるが、キョウコは154cm43kgとさらに軽い。
ヒトエの馬に決まったヨースケ以外の2人は、ヒトエはそんなに重くないので馬としてはまだましな方だと自身らをはげましながらヒトエを支えていたが、キョウコはさらに軽いのでヒトエの「キョウコも乗ろうよ」という提案に、心の中で賛成していた。
しかし、次のヒトエの言葉に3人は氷つくことになった。
「こいつら丈夫な馬だから二人乗りしても問題ないよ」
ヒトエは意地悪に言い放った。ヨースケら3人は固まってしまい、歩みを一瞬やめてしまった。
その瞬間、ヒトエの鞭はヨースケの右頬をとらえた。
「何勝手に止まっているの。進め。」
ヨースケら3人は止まったままである。
ヒトエは馬上からヨースケの右頬に何度も鞭をあびせた。
ヨースケの右頬は真っ赤である。しかしヨースケは動かない。
(明らかに自分に対するあてつけだ、ヒトエのやつ、表面ではいい顔してやがるけど、なんてきつい性格してやがるんだ、くそっ!)
ヨースケはついにヒトエに対して抵抗した。
「女二人で何キロになると思ってんだ!少しは下の俺たちのことも考えろよ。」
キョウコもさすがに二人乗りは悪いと思って
「いいよ、私は歩いていくから」
と申し訳なさそうに言った。
ヒトエは鞭を止め、
「体育祭1月前からの体育の時間、登下校の時間は調教時間と決まっているわ。その間、騎馬は騎手の命令には絶対逆らえないのよ。今の私に対する行為は校則違反よ。停学、退学も覚悟するのね。」
頭に血が上っていたヨースケもさすがに退学はまずいと思ったのか黙ってしまった。
さらにヒトエは言う。
「いくら男の子が力あると言ったって、私たちが軽いと言ってもさすがに女の子2人支えるのは大変よね。そこでこうしない?
もし私たち 2人を同時に乗せてキョウコの家までたどりつけたら今の無礼を許して、さらに1週間調教から解放してあげる。
けどもし無理だったら、その時は自分達の力不足ということを認めておとなしく調教を受けなおすっていうのはどう?」
女二人の体重約90kgは予想以上であった。
まず後ろの方にヒトエが跨り、その前にキョウコが乗った。
キョウコが乗ったとたんに3人は潰れそうになった。自分達のイメージなどの何倍も重かった。いや、重いというより骨が折れそうな痛さだ。
しかしここで潰れては解放されなくなる。3人は渾身の力をふりしぼって女子二人をもちあげた。
ヒトエは
「やるじゃない、解放というニンジンを目の前にぶらさげられるとお馬さんはがんばるわねぇ。」
と笑う。
キョウコも
「おもしろーい、つぶれちゃだめよ。」
とすっかりお姫様気分である。
馬の3人はその声を聞く余裕もない。
後ろの二人は右腕、左腕をそれぞれ2人の尻にしかれており、その腕は青ざめもはや血の気が感じられない。
さらに悲惨なのはヨースケで、全身が痙攣している上、腰などはくだけそうである。
しかし、その状態でも男子どもは、もはや本能のみとしか言えないような状態で一歩ずつ歩いた。
騎手であるヒトエとキョウコは下の馬のことは忘れたかのように、どの店のケーキがおいしいなど、つまらない話を繰り返していた。
「あと100m、そこの交差点曲がって少し行ったところよ、がんばってね」
2人乗りが始まってからキョウコの声が初めてヨースケ達の耳に届いた。
(100mならなんとかなる。お前らいけるぞ)
声を出す力もなかったがヨースケ達3人の気持ちは一つになった。
途端にヒトエは執拗に鞭を打ちだした。
(ヒトエの奴が嫌がらせに鞭をいれてくるが、あと80mくらい耐えてみせる。俺たちの勝ちだ。よし、交差点を曲がった。あとは一直線だ……)

しかし目の前に広がったのは閉まってしまった踏み切りである。
キョウコは
「あ、そうそう。この踏み切りあと20分ほどは開かないから、もうちょっと我慢してね。」
と無邪気に笑った。
(もう…だめだ…)
ヨースケら3人の気持ちの糸は完全に切れた。と同時に3人の馬はあっさりと崩れ落ちた。
ヨースケら3人は倒れたが、騎手のヒトエ、キョウコはそれを予期していたので、倒れた男たちの上に上手に着地した。
ヒトエは自分の足の下のヨースケに厳しい口調で言い放った。
「騎手に口答えするだけじゃなく、騎手を落とすなんて。あんたら退学は免れないわよ。」
ヨースケらは
「ごめんなさい。もうしませんから。なんでも言うこと聞きますから」
と謝った。
ヒトエは
「私だって自分の手で同級生を退学に追い込みたくないの。だから今回だけ許してあげる。そのかわり、もう二度と私に逆らわないこと、いい?」
「はい、あ、ありがとうございます。」
「じゃあ今日はもういいから家に帰りなさい。明日は朝7時に私の家の前に集合。また厳しく調教するからね。」
「はい、よろしくお願いします。」
ヨースケらは退学を免れたことにほっとしてそれぞれの家路についた。

一方ヒトエはキョウコと喫茶店に寄っていた。
「ヒトエちゃん優しいねえ。退学にするのかと思ったよー。」
「ヨースケは騎手を落としたということを学校に報告して退学にするよ。けど、まだしない。体育祭までしっかり調教して苦しめてから退学にするの。」
とヒトエは笑顔で答えた。
「ヒトエちゃんひどーい、けど私たちを落としたんだから当然よね。」 キョウコも賛成した。


つづく