十年ほど前、米国ワシントンのメディア博物館がジャーナリストや学者らに「二十世紀最大のニュースは何か」と聞いたことがある。
返ってきた答えの第一位は「広島・長崎への原爆投下」だった。アポロの月面着陸、ライト兄弟の初飛行、ケネディ大統領暗殺、ナチスによるユダヤ人虐殺などを抑えてである。
原爆は罪のない市民の命を一瞬にして奪った上、米ソ冷戦や核軍拡競争の引き金となり人類と地球を破滅のふちに立たせた(金子敦郎著「世界を不幸にする原爆カード」)。確かに二十世紀最大のニュースに間違いない。
先週、その広島に原爆を投下した米爆撃機B29「エノラ・ゲイ」の一九四五年八月六日の飛行記録が米国で競売にかけられた。時のトルーマン大統領は一切の情報を最高軍事機密として秘匿させたはずだ。それが出てきたとは驚いた。
発進基地のテニアン島から広島までの高度や時間などの記録に加えて「爆弾を投下」「(きのこ)雲が視界より消えた」の記載があるという。たった二枚の用紙だが三十五万八千五百ドル(約四千百万円)もの高値で落札された。
本当は競売などにかけず日米どちらかの国の資料館に展示し反核の証しとすべきだった。核拡散の脅威は二十一世紀の今もやまっていないのだから。百歩譲っても、落札したお金は後遺症に苦しむ被爆者の救済に充てて当然だと思う。