汚染された血液製剤でC型肝炎になったとして、患者が国と製薬会社に損害賠償を求めた薬害肝炎大阪訴訟の控訴審で、大阪高裁は和解を勧告した。
横田勝年裁判長は「今後は代理人とだけでなく、当事者との面談の機会も持ちたい」と語り、十二月七日ごろまでに和解の骨子案を提示する考えを示した。第一次提訴から五年を経て、薬害肝炎訴訟は全面解決に向けて大きな一歩を踏み出したといえる。国と製薬企業は和解勧告を真摯(しんし)に受け止め、早期解決に応じるべきである。
薬害肝炎訴訟は、全国の患者らが二〇〇二年十月から国と製薬企業を相手に東京、大阪、仙台、名古屋、福岡の五地裁で提訴している。昨年六月の大阪地裁判決を皮切りに、仙台を除く四地裁で原告が勝訴し、国の賠償責任も認められた。
血液製剤のフィブリノゲンは、出産時や手術の止血用として一九六四年に製造承認された。製薬会社の推計では、八〇年以降だけで約二十八万人に投与され、約一万人がC型肝炎を発症したとされる。カルテが残っていないことが多く、現在の原告数は約百七十人である。差別や偏見を避けるため、大半の原告は匿名で裁判を闘っている。
地裁判決が国の一勝四敗で出そろった際、厚生労働省では「高裁の判断を仰ぐしかない」との見方が広がった。しかし、厚労省が「ない」と説明し続けた患者を特定できる症例資料が十月に見つかり、本人に伝えていなかったことが分かり、批判が集中した。さらに、福田康夫首相が「今までの経緯を見ていて、政府に責任がないというわけにはいかない」と国の責任に言及したことで和解慎重論は抑え込まれた。
和解勧告を受け、舛添要一厚労相は「国として和解協議のテーブルに着き、一日も早い問題の解決に全力を挙げたい」と意欲を見せた。歴代厚労相で初めて訴訟の原告らとも面会し、決意を伝えた。
今後、和解に向けた協議が始まるが、乗り越えるべきハードルは多い。原告側が求める「国は法的責任を認め謝罪」「全員救済」「恒久対策」に対し、国側には感染時期で法的責任が異なるとの意見も根強く、どのような条件で一致点を見いだせるかが最大の焦点となろう。国民の命と健康を守るべき厚労行政の道義的責任も厳しく問われる。
肝硬変や肝がんへの進行が懸念される原告にとって、救済実現は一刻の猶予も許されない。国、製薬企業とも被害患者の早期救済という視点に立って、誠実に対応協議することが求められる。
香川県宇多津町の認可外保育所「モンドバンビーニ」で園長による園児の虐待があったとして、県は児童福祉法に基づき施設の閉鎖を命じた。認可外保育施設への閉鎖命令は全国二例目という。
県によると、園長は今年八月から十一月にかけて二―四歳の園児六人に掃除機で頭を吸引するとか、本で頭をたたくなどの行為を繰り返したとされる。十月末に施設の職員らが町に通報し、県が今月五日に施設を立ち入り調査して虐待行為を認定した。
園児たちに大きなけがはなかったようだが、もう少し対応が遅れていたら被害は拡大したかもしれない。勇気ある内部告発と、それを生かした行政の機敏な取り組みを評価したい。
児童虐待が起きるたびに、児童相談所など行政側の判断ミスや対応の遅れが指摘されてきた。二〇〇二年に香川町(現高松市)の認可外保育施設で起きた園長による園児虐待死事件では、遺族が起こした民事訴訟で、情報を基に立ち入り調査しながら適切な措置を講じなかった県の監督ミスが認定された。こうした苦い教訓が、迅速な行動につながったといえよう。
今回は保育施設だったが、虐待の多くは家庭内で起きるため、さらに密室的かつ複雑な背景が絡んでくる。虐待も身体への暴行だけでなく、言葉によるものや食事を与えないで放置する養育放棄など多様で実態がつかみにくい。
いち早く子どもたちの異変を察知するためには、周囲の高い関心と多角的な目線が欠かせない。今月は「児童虐待防止推進月間」である。虐待行為は断じて許さないとの決意を新たにするとともに、社会全体での連携を強め悲劇にストップをかけたい。
(2007年11月9日掲載)