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名称:(株)コマキ楽器
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許可番号
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<JASRAC許諾番号>
JASRAC S0211051048
アーサー・ハル インタヴュー

 近年日本でも広がりを見せる「ドラムサークル」。名前を聞いたことはあっても、ドラムサークルの歴史や意義を知る人はあまりいないだろう。ドラムサークルの第一人者で、「ドラムサークルの父」とも呼ばれるアーサー・ハル氏に、ドラムサークルとはどのようなものなのかを伺った。


ドラムサークルはいつ、どのように生まれたものなのでしょうか?

 ドラムサークルは、文明が始まった瞬間から様々な形態で存在した、と私は考えています。そう考えると現在のドラムサークルは「近代のドラムサークル」と言えますが、これは1968年か69年にサンフランシスコで行われた「サマー・オブ・ラブ」というイベントで原型が生まれたのではないかと思います。この時にはファシリテーター(ドラムサークルの案内役)がいるわけではなく、ただ人々が集まって太鼓を叩くだけのもので、当時は「サンダードラミング」と呼ばれていました。

 文明の中に様々な形態で存在してきたドラミングは、リズムや歌、ダンスと文化的に、宗教的に結びついており、それぞれの文化の中に冠婚葬祭や出産、収穫などを意味するリズムがありました。こういったリズムはある文化特定のもので、同じ文化を持つ共同体(コミュニティー)のために演奏される、それが古くからのドラムサークルでした。

こういった文化特定のドラミングは、リズムの構造そのものを重要視し、演奏を通して…例えば結婚や収穫など…それぞれの機会に演奏されるリズムは決められています。また、こうしたドラミングはルールを持っているため、集団でのアンサンブルができる普遍的なものになっています。

 これに対してサンダードラミングは、”in the moment music”「いま、ここだけの音楽」であり、決まった形を持たないフリースタイルのものでした。また当時の若者のメンタリティを反映し、ドラミングにルールはなく、リーダーという存在もなかったのです。

 文化特定のドラミングとサンダードラミング、これは当時全く関係のない存在と思われていましたが、私には2つのドラミングはコインの表裏のように思えました。文化特定のドラミングは、ある民族が長年培ったトラディショナルなものですから、リズムの枠組みを与えられればどんなに長い間でも、演奏を続けることができます。そして集団で、文化や歴史といったコミュニティのスピリットをリズムで表現することができます。しかしこのドラミングは絶対的なもので、個人が自由に表現する余地はあまりありません。一方でサンダードラミングは、個人のリズミカルスピリットを表現することはできますが、決まったルールを持たないため、長く演奏を維持することができず、リズムが崩壊し演奏が止まってしまうことも少なからずありました。

 「サマー・オブ・ラブ」が開催された1960年代頃、私は10代後半で、サンバやアフロ・キューバンといったトラディショナルな音楽のレッスンを受けていました。私の先生達はサンダードラミングを軽視し、参加してはいけないと言っていましたが、私は幼い頃からよくフリースタイルでの演奏をしていたので、サンダードラミングもトラディショナルなドラミングも、どちらも自然なものだと思っていました。そしてサンフランシスコのヒッピー・ヒルというところに行った時、常に20〜40人の人がフリースタイルで演奏しているのを見て衝撃を受け、先生には内緒でサンダードラミングにも通うようになりました。

 トラディショナルなドラミングとサンダードラミング、この2つは互いに交わることなく無視し合っていましたが、私だけはどちらにも参加していたのです。どちらのドラミングにもメリットがあります。トラディショナルなドラミングには自己を表現する力が足りず、フリースタイルのドラミングには技術や枠組みが足りない。そして「サマー・オブ・ラブ」でサンダードラミングに参加した私は、リズムが崩壊しそうになった時、それを防ごうと試みました。すると音楽は止まらずに、新たなリズムに移行したのです。ここが発端となって、ファシリテーション(サポートする、ものごとを容易にするの意)の技術を身に付け、コミュニティ・ドラムサークルを始めました。

 私は20代半ばから、人材開発などの特定のグループや学校でドラムサークルを行い、三十数年に渡りファシリテーションの技術を構築してきました。その後、1990年代からは企業のチームビルディングのためのドラムサークルを、そして1995年にはファシリテーターの養成研修も始めました。それから10年、私はファシリテーターの養成やドラムサークルのためにアメリカ、カナダ、スウェーデン、ドイツ、韓国、香港、台湾、そして日本と世界中を回っています。ファシリテーターの養成研修は、始めた当時半分がアマチュアやプロの打楽器奏者でしたが、今や3/4が音楽教師や音楽療法士、カウンセラー、福祉関係者といった専門職の人が占めています。ファシリテーションの技術は今後さらに発展し、そしてドラムサークル自身もこれから成長していくでしょう。


ドラムサークルが普及したのはなぜでしょう?ドラムサークル自身に力があるからでしょうか?

 ドラムサークルの利用範囲が広いことが、普及した理由のひとつでしょう。ドラムサークルは、参加者の持つリズムスピリットを強める、コミュニティ作りをする、そして参加者が健康に、より良く生きるお手伝いをすることを目的としています。ドラムは演奏経験や年齢、障がいの有無等に関わらず音を出すことができる楽器なので、きちんと訓練を受けたファシリテーターがいれば、誰でも参加することができます。

 現在ドラムサークルは、フェスティバル、福祉関係のレクリエーションやケア、人材開発、学校や企業でのチームビルディング*1、また芸術的な表現など、幅広く利用されています。私は、ドラムサークルは一時の音楽的流行ではなく、世の中を住みよい場所にしていこうという考えに基づいた、ひとつのムーヴメントだと思っています。たとえ私が来日してドラムサークルを行わなくなっても、それぞれのコミュニティのために活用され、成長していくでしょう。

アーサーさんは世界中でドラムサークルを行っていらっしゃいますが、日本でドラムサークルを行ってみて、どんな感想をお持ちですか?

 日本で初めてドラムサークルを行ったのは、2004年の10月*2でした。それまでアメリカでのファシリテーター養成研修に日本の方が参加していたことはありましたが。私はそれまで韓国や香港、台湾などアジアの国々でドラムサークルを行ってきたので、アジアのことを理解しているつもりでした。しかし実際に日本でドラムサークルを行ってみると、日本人は他のアジアの国々とは異なる特徴を持っていることを知りました。日本人は慣習や形式を重視し、調和を乱すことを極端に嫌うように、私は感じました。日本でドラムサークルを行う場合には、海外のドラムサークルの手法をそのまま取り入れるだけでは十分ではないと私は思います。今後、日本人の特徴にあったドラムサークルの手法を見つけることが必要でしょう。

話は変わりますが、アーサーさんはレモからアシーコ(ASHIKO)という楽器を出していらっしゃいますね。アシーコとはもともとどこで使われていた楽器ですか?

 アシーコは、トラディショナルに使われてきた楽器ではなく、ニューヨークで生まれた創作楽器です。もともと西アフリカを中心に使われていたコーン形の太鼓の形体と、ジャンベのマリ編み(ジャンベに使用される、縦横のロープでドラムヘッドをチューニングする方法)を組み合わせて作られました。西アフリカで使われていたコーン形の太鼓は、地域によって異なる名前を持ち、ナイジェリアの一部では「アシーコ」と呼ばれています。あるナイジェリア出身の打楽器奏者が、自分の国で使われていたアシーコとその創作楽器の形が似ていたために、アシーコと呼んでしまったのです。現在のようにアシーコという名前になったのは、そのためです。もし、最初に見た人がコンゴ出身の人だったなら、「ンゴマ」という名前になっていたかもしれませんね(笑)

 日本でアシーコはあまり一般的ではないようですが、アメリカではジャンベと並び広く知られています。アシーコは軽量で、持ち運びやすい形の楽器です。そういった意味で、アシーコはドラムサークルに適した楽器だと、私は思っています。

ドラムサークルと言うと、ファシリテーターがリズムをレクチャーするというイメージを持っていましたが、実際にアーサーさんのドラムサークル参加してみると、ファシリテーターは指揮者のような存在に思えました。

 参加者の前に立って、参加者に「このようなリズムを演奏してください」とリズムを提示する(パート出し、リズム出し)、という行為はファシリテーションのごく表面的で、しかもほんの一部分にすぎません。リズムを提示する際、私はリズムを教えているのでも、参加者をコントロール、つまり支配しているのでもありません。リズムのパートを提示することは、参加者が自由に演奏する基盤を提示しているだけであり、参加者はここから即興をしていきます。何もないところから自由に演奏するというのは、非常に難しいことですからね。また、ファシリテーターがパートを提示することで、リズムが自然と参加者の潜在意識の中に入っていき、また別の機会に活用することもできるでしょう。

 ファシリテーターの役割の中で、リズムの提示は全体の10%位にすぎないため、その他の90%を学ばないまま見よう見まねでファシリテーションを行っても、それはその「ファシリテーターもどき」が作曲した音楽であり、参加者全員、つまりそのコミュニティ自身が創造した音楽にはなりません。ファシリテーターの役割は、1人1人の中にあるスピリットを表現する手助けをすることです。ドラムサークルの輪の中でずっと指示を出しいるのは、良いファシリテーターとは言えないでしょう。

では、ファシリテーターに必要なものはなんでしょうか?

 ファシリテーターに必要なものは、人を思いやる心、そして成熟した人格です。人間としての優しさがなければファシリテーターはできません。勿論、打楽器を演奏する知識もある程度は必要ですが、ミュージシャンとファシリテーターとでは、太鼓を叩く目的が違いますから、ファシリテーターにはそれほど高い演奏技術は必要ではありません。また、リズムは個人のスピリットを表現したり、共有したりするための間接的な手段にすぎないと私は考えています。ドラムサークルの真の目的は、何かを共有すること、また共有できるものを発見することだと思います。人間としての優しさや奉仕する意志、これがファシリテーターに必要な資質であると言えるのではないでしょうか。


取材協力:DRUMAGIK/ドラムサークル研究会 代表 佐々木薫氏

ドラムサークルについてのお問合せは、下記まで。

HP http://www.drumcircle.jp/

■ドラムサークル関連資料

・アーサー・ハル著『ドラムサークル・スピリット』(CD付)

・アーサー・ハル著、教則ビデオ『Drum Circle Facilitation』

・クリスティーン・スティーヴンス著『アート・アンド・ハート・オブ・ドラムサークル』(CD付)

<上記ATN刊、問合先03-3475-6981>

・ミッキー・ハート著『ドラム・マジック〜リズム宇宙への旅』

<工作舎刊、問合先 03-3465-5251>

・ロバート・L・フリードマン著『ドラミング〜リズムで癒す心とからだ』

<音楽之友社刊、問合せはエスニックシティまで>