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被爆元徴用工 国賠償確定大きな意義 '07/11/3

 被爆者は国内外のどこに住んでいようと被爆者であり、被害に対する賠償責任が国にある。こんな当たり前のことが、戦後六十二年たってやっと最高裁で認められ、原告らの勝訴が確定した。

 太平洋戦争中に、朝鮮半島から広島市の旧三菱重工業の工場に強制連行され被爆したとして、韓国人元徴用工四十人が国と三菱重工などに慰謝料と未払い賃金の支払いを求めた上告審判決である。最高裁は、広島高裁の二審判決を支持し、国の上告を棄却した。

 援護行政をめぐる被爆者の訴訟で、国家賠償が確定したのは初めてであり、大きな意義がある。ただ、援護への道は広がったが遅すぎたともいえる。十二年に及ぶ裁判で、生きて判決を迎えられた原告はわずか十五人。喜びも半ばの複雑な気持ちだろう。

 原告らは一九四五年八月に広島市で被爆。戦後、韓国に帰国してからは「出国すると被爆者援護法に基づく健康管理手当が受給できなくなる」とした旧厚生省局長通達(四〇二号通達)などのため、長年援護を受けられなかった。

 この四〇二号通達について涌井紀夫裁判長は「国の担当者は通達の解釈を検討する注意義務を怠った。原告は被爆による特異な健康被害に苦しみ、不安を抱えながらの生活を余儀なくされた」と厳しい判断を示した。二月のブラジル在住被爆者の訴訟で既に最高裁は通達は違法と認定している。今回はさらに踏み込み、行政の「前例踏襲」の姿勢を批判し、担当者の怠慢を断罪した形だ。

 そのうえで、水俣病訴訟の判決(九一年)が示した「内心の静穏な感情を害された場合、例外的な精神的な損害は認められる」という基準に沿って慰謝料の支払いを認めた点でも、高く評価できる。

 一方で「せめて働いた分の給料を」という旧三菱に対する原告らの賠償請求は認められなかった。「戦争損害と同様に憲法の予想しないもの」と最高裁で退けられたのは、残念というほかない。

 国は韓国人被爆者の手当受給資格を認めた二〇〇二年の大阪高裁判決を受け、翌年通達を廃止。制度上は在外被爆者が出国後も手当を受けられるようになっている。

 ただ、被爆者健康手帳の申請に来日が必要とされる状況は依然として続いている。与野党とも、改正案提出の構えを見せているが、高齢化する在外被爆者に残された時間はもうあまりない。国は一日も早く解決策を打ち出すべきだ。




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