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連載「11万人の衝撃・検定撤回への道」(1)

静かな怒り(10月1日朝刊総合1面)

歪曲だめ 民意の証し
戦争体験者と思い共有/「実態伝える」礎に誓い

 見渡す限りの人波だった。会場に収まりきれず、あるいは涼を求めて、周囲の小道や木陰にもあふれ出す。それでも、入り口からは会場を目指す人の列が続いていた。

 九月二十九日午後三時。宜野湾市の宜野湾海浜公園で「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が始まった。

涙浮かべて

 大会実行副委員長として、壇上に座った玉寄哲永(73)=県子ども育成連絡協議会長=と小渡ハル子(78)=県婦人連合会長=は顔を見合わせた。「こんなに多くの県民が集まるとは」。互いの目に涙が浮かんだ。

 この日の朝、糸満市摩文仁には、平和の礎に向かう二人の姿があった。沖縄戦で亡くなった玉寄の弟や、小渡の同級生らの名が刻まれていた。

 大会であいさつに立った玉寄は「祐ちゃん。兄貴が六月二十三日以来、また弟を訪ねて来たぞ」と、三歳で亡くなった弟に礎の前で話し掛け、「沖縄戦の実態を伝える」思いを募らせてきたことを語った。

 大会実行委員長の仲里利信(70)も「私は八歳のとき戦争を経験し、親兄弟を亡くしました」と話した。六十二年間、心の奥底に封印してきた忌まわしい記憶を解くつもりはなかった。だが「今回の教科書検定の結果が、私の気持ちを揺るがした」と訴えた。

 最高気温三〇度を超えた炎天下と人いきれ。参加者は身じろぎもせず、檀上に視線を注ぐ。時おり拍手を送る以外は、静かに話に耳を傾けた。

 檀上の沖縄戦体験者らの思いに寄り添い、体験を共有しようとする。その様子は、「沖縄戦の事実の歪曲は許さない」という静かな怒りが県内中に広まり、燃え続けていることを感じさせた。

10人に1人

 大会が終わりに近づいても、参加を目指す人の波は、会場周辺や会場へのシャトルバスの車内、バス乗り場にあふれた。会場にいる十一万人に、それらの人を合わせると十二万人。宮古、八重山の群民大会には計六千人が参加した。

 「県民のおよそ十人に一人が参加した。国も看過ができない数字だ」。大会終了後、記者会見で仲里は自信をみせた。

 翌三十日、全国紙の各紙朝刊は、一面で大きく県民大会に十一万人が集まったことを報じた。県民大会前に開催を知らせる報道はわずかだった。

 沖縄タイムス本社では朝刊が、二百部以上売れた。通常は一日に数部の販売だ。「十一万人の衝撃」は一夜にして県内外に広がった。

 「何か協力できることはありませんか」、「今後どうするつもりですか」。実行委関係者の電話は、朝から問い合わせで鳴り響いた。

 全国が注目する中、「検定意見撤回」実現に向けた沖縄の新たな取り組みが始まる。(敬称略)(教科書検定問題取材班)

 復帰後最大の十一万人を集めた県民大会。その結果は、国に衝撃を与え、検定意見撤回を求める運動に弾みをつけた。その様子を伝える。


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