医療事故の原因を調査する第三者機関の創設をめぐり、医療界・法曹界・患者団体などの“溝”が依然として埋まらない――。厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」(座長=前田雅英・首都大学東京大学院教授)は11月8日、同省が10月に公表した「第2次試案」に寄せられた意見(パブリックコメント)に基づいて意見交換した。
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医療事故調、医療現場は抵抗 同検討会は今年4月から開催され、厚労省は8月の検討会(第7回)で中間的な取りまとめを公表した。
しかし、「届出義務の範囲」「違反した場合のペナルティー」などをめぐり意見がまとまらず、「中間報告」には至らなかったという経緯がある。
前回の検討会(第8回目)では、「第2次試案」について意見交換。加藤良夫委員(南山大大学院法務研究科教授・弁護士)は第三者機関を内閣府の下に独立行政委員会として設置することを提案。
医療事故の原因が厚労省の施策にあるケースを指摘した上で、「厚生労働省の施策がまずいと言える機関でなければいけない」と訴えた。
これに対して、前田座長が「今、つくらないといけない。タイミングを失するとできない。厚生労働省内に設置するのが現実的だ」などと創設を急ぎ、「厚生労働省か内閣府か」という議論に終始した。
この日の検討会は、医療安全推進室長がパブリックコメント(要約)を約30分かけて一つひとつ読み上げた後、各委員が意見を述べた。
■ 医療安全という理想
樋口範雄委員(東京大大学院法学政治学研究科教授)は「医療従事者からの意見が多く、中には厳しい意見もあった。こちらの説明不足のために検討会の意図が伝わっていなかった部分があるだろう」と述べ、医療安全という目的のための組織創設であることを強く打ち出す必要性を訴えた。
樋口委員は、医療事故に対して刑事司法が果たしてきた役割を評価しながらも、「医療事故の原因は複合的であるから、医者を一人捕まえて刑務所に入れても全体の医療安全の向上に資するかは疑問。制裁型・懲罰型ではなく、医療安全の旗を立てるべきだ」と訴えた。その上で、「医療安全をやるのは警察でも法律家でもなく、医療界。医療関係者がまとまって、世界に冠たる日本のモデルをつくるべきだ」と熱く語った。
しかし、第三者機関に届け出る医療事故の範囲については「明確にすべきだが、難しい」と言葉を濁した。
高本眞一委員(東京大医学部心臓外科教授)は「医療関係者が中核との意見だが、学会でも医療安全は重要な視点になっている。地域の医師も協力して、医療安全の体制を進めているので、樋口委員の要望には応えられる」と述べ、この日は21条問題に触れなかった。第7回の検討会で高本委員は「診療関連死の範囲を決めないと現場は混乱する。届出違反のペナルティーは医療安全に資するというよりも医療現場を恐怖に陥れる」と強く批判している。
医療事故の調査機関について、厚労省内ではなく内閣府の下に設置することを強く求めている加藤委員は「院内事故調査委員会」による自主的な評価も強調し、「院内の調査委員会をいかに育てていくかが優先課題だ。第三者委員会に“お任せする”ような病院になってはいけない」と述べ、各病院が医療安全を自発的に進める中で二次的に関わるという第三者委員会の位置付けを示した。
これに対して、南砂委員(読売新聞東京本社編集委員)は「警察があったからこそ、ここまで来れた」と述べ、医療事故に対する刑事司法の役割を高く評価。南委員は医療現場の深刻な状況に触れながら、「理想的なことを言ってみても、現実的にはできない」と述べ、疲弊する医療現場の自助努力による医療安全の達成に限界があることを指摘した。
医療事故被害者の遺族である豊田郁子委員(新葛飾病院・セーフティーマネジャー)は「私の子どもの事故は内部告発で知った。内部告発がなければ公にならなかった。萎縮医療を危惧(きぐ)する意見は理解できるが、なぜ遺族が警察に届け出るのかという原点を考えてほしい。調査に警察が介入しない形は不安だ」と述べた。
■ 萎縮医療という現実
第7回の検討会で、高本眞一委員(東京大医学部心臓外科教授)は「診療関連死の範囲を決めないと現場は混乱する。届出違反のペナルティーは医療安全に資するというよりも医療現場を恐怖に陥れる」と強く批判している。
この日の検討会では、木下勝之委員(日本医師会常任理事)が医療事故の届出先を警察ではなく第三者機関にすることなどを改めて主張し、「外科や産科で若い医師の意欲をそがないためにも、届け出るべき事故の範囲を整理してほしい」と求めた。
堺秀人委員(神奈川県病院事業管理者・病院事業庁長)は、医療安全を達成するまでの過程には、@真相究明、A紛争解決、B処分、C医療の質向上――の4本柱があり、これらは1つの機関ではなく別々の機関に分担させるべきとした。
このうち、処分について堺委員は「法律の専門家は刑法の適用に関して、起訴・公判・判決が大事だと考えているようだが、医療機関の側から見れば、その下の取調べが重要だ。医師法21条に何らかの改正が加わらないと、所轄の警察署が動く」と述べ、異状死の警察への届出義務を規定する医師法21条の改正を求めた。
堺委員はまた、「法律専門家と医療の専門家との考え方には違いがあるが、根本は共通してほしい。医療の専門家も国民から見れば、“医療関係者”という分類になる」と述べ、医療安全を含む“医療の質向上”に向けた共通の理解が必要とした。
更新:2007/11/09 キャリアブレイン
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