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社説2 混合診療で患者の選択広げよ(11/9)

 公的健康保険が使える治療法と保険対象外の先進的な治療法などを併用する混合診療を原則として禁止している問題について、東京地裁は厚生労働省の健康保険法の解釈は誤りであり、混合診療の原則禁止は違法との初判断を示した。

 難病患者などの身になれば様々な治療法を試したいと考えるのは当然だ。しかし、たとえば保険外の新薬を使いたいと思っても、本来なら保険が利く検査費や入院費を含めて全額が自己負担となるので、先進的な治療法や画期的な医薬品をあきらめる患者がいる。あきらめきれずに過大な負担を強いられている人も少なくない。混合診療の解禁は、比較的低い負担で患者の選択を広げるものであり、高く評価できる。

 同省が混合診療を全額自己負担としているのは、保険適用と保険外を組み合わせる診療を不可分一体とみなしているためだ。東京地裁は、健保法は個別の診療行為ごとに保険適用の可否を決める体系になっており混合診療を保険対象から排除すると定めた明文規定はなく、不可分一体の解釈は根拠がないと判断した。

 政府の規制改革・民間開放推進会議(現規制改革会議)も一貫して同様の理由をあげて厚労省に解禁を強く求めてきた。だが同省は譲らず、保険診療との併用を認める保険外診療の種類を限定的にとどめた。同省の水田邦雄保険局長は同会議との公開討論で、討論は無駄だという趣旨の発言もしている。

 安全性や有効性が確認されない医療行為が広がる心配も同省が全面解禁を渋った理由だが、そうした問題は健保法の解釈・運用と次元が違うというのが地裁の判断だ。規制改革会議もかねて危険で有害な医療行為をする医師の取り締まりこそが保険診療、保険外診療、混合診療のすべてで求められると指摘している。この考え方は的を射ている。

 混合診療には公的医療費の膨張を抑える効果も期待できる。日本医師会は保険診療の範囲拡大を求めている。確かに国民皆保険のもとでは、できるだけ多くの医療行為に保険を適用するのが理想だ。だが国や自治体、各種の保険運営者の財政状況をみれば適用拡大には限界もあろう。厚労省は控訴を断念すべきである。

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