自民党との連立協議をめぐる混乱の責任を取って辞任表明していた民主党の小沢一郎代表が党両院議員懇談会や記者会見で「来るべき衆院選に政治生命のすべてを賭け全力で戦い抜く」と語り、正式に辞意を撤回し続投を表明した。
リーダー不在の混乱を収束し、小沢氏のもとで政権交代に向け再出発する形は一応整えたといえよう。ただ「役員から不信任を突き付けられた」と息巻いていたのは数日前のことだ。野党第一党のトップとして言葉の軽さに失望を禁じ得ない。有権者の信頼をつなぎ止めるのは容易でなく、求心力回復の道のりは険しいと言わざるを得まい。
混乱の発端は福田康夫首相(自民党総裁)との党首会談で出た連立政権協議の提案にある。それが辞任・慰留劇に発展、民主党は後継リーダー不足、分裂の危機におびえるひ弱さを露呈した。小沢氏は懇談会の冒頭で「迷惑を掛けた」と陳謝せざるを得なかった。当然だろう。記者会見では連立構想について「そのことは考えに入れず、総選挙で頑張る」と語った。遅まきながらやっと世論に沿った考えを明示したといえよう。
共同通信社の五、六両日の全国緊急電話世論調査では連立構想は「望ましくない」が56・4%で、「望ましい」の25・8%を大きく上回った。世論は連立に否定的だ。今後、民意をくんだ的確な政策運営が求められる。
「力量不足」「次期総選挙での勝利は厳しい」と小沢氏は先の辞任表明の席で政権担当能力を疑問視する辛らつな発言を行い党内から反発を買っていた。これについて「参院選に勝って浮かれていては衆院選で勝てない」という意味だと釈明したが言い訳の域を出ず、しこりは残った。
二人だけの密室会談の弊害は大きい。当事者間の主張の食い違いを生み、今も埋めることができない。最大の疑問は「大連立」はどちらが持ち掛けたかだが、小沢氏は記者会見で「ある人物から二カ月ほど前に言われ、応じた」などと経緯を説明し小沢首謀説を否定した。首相はいまだに「あうんの呼吸ではないか」と言葉を濁したままだ。新テロ対策特別措置法案や自衛隊の海外派遣についても双方の言い分は対立している。透明性ある議論と十分な説明がいかに重要かを印象づけた。
小沢氏は「総選挙に向けて頑張る」と重ねて強調したがそのためには国会を舞台にした活発な論戦が欠かせまい。党首討論を早急に開き公開の席で、対案骨子がまとまった対テロ新法案や、先の党首会談の食い違いを正すことから始めてもらいたい。
政府が閣議決定した二〇〇七年版少子化社会白書は、昨年の合計特殊出生率が一・三二と六年ぶりに上昇したが、楽観できないと戒めている。今年一―八月の出生数は前年同期比で三千人以上少ない。
白書は、五五年の日本の姿を、人口が九千万人を割り〇―十四歳の年少人口は10%以下、六十五歳以上が40%以上と予測する。十五―六十四歳の生産年齢人口減少が経済に悪影響を及ぼし、地域の集落維持が困難になると訴える。
少子化の要因は人々が結婚しなかったり子どもをつくらないことだが、白書は結婚や出産の希望は高いとし、希望と実態の間を埋める努力で流れを変えられるとする。
重要なのがワークライフバランス(仕事と家庭生活の調和)の実現、働き方の改革である。今回、少子化対策のためだけでなく若者、女性、高齢者ら全体の働く意欲結実のためにも実現が求められるとした点が目新しい。
問題は現状をどうやって変えるかだ。白書は政府の少子化対策戦略会議での審議や、今後の国の基本指針となるワークライフバランス憲章と政府の行動指針策定などの取り組みを紹介している。
行動指針は先月末、案が示された。50%以下の年次有給休暇取得率を100%に、男性の育児休業取得率を10%にするなどの数値目標を掲げた。だが、推進策となると機運の醸成や社会の意識改革など途端に漠然としてくる。
企業が動きたくても経済情勢や企業間競争の激化でままならない。税制面での優遇措置の整備拡充など行政の具体的後押しが肝要だろう。
それには財源が必要だが、今回の白書を含め国は重点配分などをいっているだけで、この点でも心もとない。
(2007年11月8日掲載)