◎国会の会期延長 衆院再議決もためらわずに
政府・与党が今国会の会期を三十五日間延長する方針を決めた。これにより、新テロ対
策特別措置法案の成立を図る上で十分といえる審議時間を確保できることになる。小沢一郎民主党代表の辞任騒動で与野党の対決が強まることも予想されるが、議論を尽くして結論を出してもらいたい。
政府・与党としては、民主党の理解を得る努力を最大限しながらも、無原則な妥協は避
け、憲法に規定のある衆院での再議決もためらわない、という態度で臨むのがよいと考える。国会の分断で、日本の国家意思をいつまでも決められないというのが一番よくない。そうした事態が続けば、国際社会における日本の信頼が揺らぐことになりかねない。
政府の新テロ特措法案に対して、民主党もアフガニスタン支援のための法案づくりを進
めており、福田康夫首相は与党幹事長に、民主党と合意形成を図るよう要請した。衆参ねじれ国会では、与野党協議で政策を実現する政治手法が重要であり、与党内には民主党の対案との「折衷案」を模索する動きもある。
ただ、政府の給油活動も民主党の対アフガン支援も「テロとの戦い」の一環である国際
平和活動であり、日本の外交・安全保障の原理原則に基づいてなされるものである。そうであれば、小沢代表のいう通り、それぞれの法案を足して二で割ればよいというものではなかろう。
民主党が先にまとめた対アフガン支援法案の考え方では、国連決議に基づく国連の活動
であれば、給油活動を含めた海上阻止活動に参加することを検討するという。政府の法案への歩み寄りに含みを持たせているが、自衛隊の海外派遣を国連決議がある場合に限定する小沢代表の考え方を受け入れるかどうかは、安全保障の根幹にかかわることであり、深い議論が必要である。
日米同盟を安全保障の基軸としている日本の国家主権や憲法よりも国連決議に重きをお
くような考え方に、自民党として軽々にくみするわけにはいくまい。
与党内には、新テロ特措法案が参院で否決された場合、衆院での再議決に慎重な意見も
根強いが、法案の不成立を野党のせいにして糊塗するようであれば、政権政党の責任を果たしたとは言えないだろう。
◎カンヌで金沢発信 和の集積で富裕層開拓を
経済産業省と国土交通省は十二月上旬にフランス・カンヌで開催される富裕層向けの旅
行博に初めて出展し、京都、金沢の文化を中心に「本物の和の魅力」を売り込むことになった。日本ではあまり知られていないが、欧米では富裕層の旅行市場が急成長し、日本の伝統工芸や伝統芸能への関心も高まっているという。石川県や金沢市もこれを機に「和の集積地」としての魅力を発信し、富裕層市場に積極的に打って出たい。
経済産業省などがまとめた報告書によると、世界で百万ドル以上の金融資産を持つ富裕
層はこの十年で四百五十万人から八百七十万人に増え、欧米ではレジャー旅行で年間一億円以上使う人が十万人を超えたと言われる。富裕層専門の旅行会社も増え、舌も目も肥えた人たちを満足させる非日常的な体験を提供している。
秋葉原や東京ディズニー・ランドを組み込んだ格安ツアーと違い、客単価が圧倒的に高
く、大人数でなくても経済効果が期待できるのが受け入れ側にとっての魅力である。
カンヌの旅行博「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット」への
出展は、政府が富裕層市場を開拓する取り組みの第一弾となる。世界で最も権威ある富裕層向けの旅行博として知られ、「ジャパンナイト」と銘打ったイベントでは、舞や太鼓の披露、茶会、蒔絵、歌舞伎衣装の展示などが行われる。
京都と金沢の文化は和の代表として紹介されるわけだが、こうした訪日キャンペーンの
新たな展開に足並みをそろえ、石川県や金沢市も効果的な情報発信のあり方を考え、受け入れ体制を整える必要があろう。
富裕層を対象にした旅行市場では「本物の体験」「究極の美」などをテーマにしたツア
ーが好まれ、日本に対しては、西洋化された都市文化よりも、歴史や精神性に根ざした体験を求める傾向が強いという。金沢に息づく陶芸や漆芸、舞踊、生け花、茶道、能などは「ジャパンブランド」そのものであり、一つの地域でこれだけ多彩な「日本らしさ」を体験できることを海外ヘ向けてもっと強くアピールしていいだろう。
海外富裕層市場の開拓は、誘客による経済効果にとどまらず、金沢を世界に発信する点
でも意義がある。