政府と県、関係市町村が米軍普天間飛行場代替施設の建設計画などを話し合う普天間移設措置協議会が十カ月ぶりに開かれた。
仲井真弘多知事は名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に建設するV字形滑走路を沖合へ寄せるよう求めたが、政府は環境への影響などを理由に応じなかった。
普天間移設問題が地元の理解と協力なしには前進しないことは、海上基地建設が頓挫したことからも明らかである。
地元は、県外移設がベストだと考えながらも、苦渋の選択で県内移設に基本合意したのである。
そのような経緯からしても、少なくとも騒音の軽減、危険性の除去に向けた県や関係市町村の要求を実現することが政府の在り方である。
過剰な期待禁物
移設措置協は、第3回まで防衛相と沖縄担当相が主宰してきたが、今回から官房長官主宰に格上げされた。
これまでの協議会は、防衛省が主導権を握り、政府案を地元に押し付ける場でしかなかった。地元の要望に耳を貸さず、話し合いとは程遠い実態になっていた。
仲井真知事は協議会後、「(政府は)これまでは既定路線で展開したいという強い思いがあったが、今回は沖縄の意見に耳を傾ける姿勢と気持ちがあった」と評価した。「ここで解決できないものはない印象を受けた。コミュニケーションは緊密、率直にできるようになった」とも述べた。
協議会に変化の兆しがあったことで、県や関係市町村が期待感を抱くことも理解できる。
しかし、この日の協議会でも県など地元要求に対して、前進は一切なかった。過剰な期待は禁物である。
実際、石破茂防衛相は「政府として今の形(政府案)が最も適切だと考えている」と、これまでの姿勢を崩してはいない。
防衛省はこの間、米軍再編交付金をちらつかせ、交付金の対象となる「再編関連特定周辺市町村」の指定から名護市など4市町村を外すなど、圧力をかけてきた。移設先の環境現況調査(事前調査)では自衛艦まで動員した。
防衛省は日米合意を最優先に推し進めることに終始し、協議会を形骸化(けいがい)させてきたと言っていい。
政府全体の姿勢が変わったのかを、今後の協議を通してしっかり見極める必要がある。
仲井真知事が沖合への修正を求めたのに対し、政府は沖合修正によるジュゴンや藻場など、自然環境への影響増大を指摘し、政府案への理解を求めた。
普天間代替施設は160ヘクタールもの埋め立てを伴う。環境にいくら配慮しても、環境が破壊されることは確実である。
現行案に固執する政府が環境への配慮を持ち出すことは、説得力を欠く。
情報すべて開示を
日米合意で最も問題なことは、地域住民の安全が確約されていないことだ。
新設される基地には次世代兵員輸送機MVオスプレイが配備されることが確実視されている。同機は開発、試験飛行段階で4回墜落し、うち3回で計30人が死亡している。同機の危険性は依然として解消されてはいない。
普天間移設は、危険性の除去が大きな目的だった。そのことからして、地域住民の安全保障を最優先することがまず求められる。その視点が政府には欠落している。
町村信孝官房長官は沖合への修正について「日米の合意が必要。日本の事情で勝手に変えられるものではない」と述べた。
そもそも地元の頭越しに米側と勝手に合意したのは政府の方である。政府には米側に修正合意を取り付ける責任がある。
県内移設そのものに反対する声は根強い。沖縄だけに負担を押し付ける姿勢を政府が大きく転換しない限り、県民大多数の理解を得ることはできない。
政府はそのことをまず認識し、12月上旬に予定されている次回の協議会に臨むべきである。
全長約180メートルの艦船が停泊できる岸壁や戦闘機装弾場など建設計画の全容が政府から地元に一切伝えられていない。地元には重要な事項にもかかわらずである。
これまでに明らかになっている米側の公文書からは、単なる移設ではなく、より強化された基地が新設されることが分かっている。
情報をすべて開示しないままで協議がうまくいくはずはない。
(11/8 9:55)