| ダイヤモンドの原石 勝野多恵 28歳
私がはじめて彼に出会ったのは、長野県岡谷工業高校バレーボール部が初のインターハイ優勝にむけスタートした県大会でのこと。00年6月、地方のＣＡＴＶに勤務していた私は諏訪地域で放送する番組取材のために体育館を訪れていた。当時、春の高校バレーで三連覇という記録をうちたてていた岡谷工業だが、まだ夏のインターハイは一度も制したことがなかったため多くの注目を集めていた。
ベンチでしきりに岡谷工バレー部壬生義文監督からの指示に耳を傾ける越川 優選手。入学したばかりとはいえすでにユニフォームを与えられ、ライトのポジションに立っていた。身長191ｃｍという高さは取り立てて驚くべき数字ではない。しかし、上半身・下半身ともについたバランスのいい筋肉は凄かった。スパイクを打つたびにそのボールの威力に圧倒された。まだ入学してから3ヶ月もたっていない新入生は、会場の注目を一身に集めていたのだ。
「先輩たちに迷惑がかからないように一生懸命がんばっているんですが、思うようにはいかない・・・みたいな感じです」
岡谷工業バレー部は、完璧なまでの「組織バレー」「全員バレー」といわれるように個人技よりもそれを上回る組織力を重視している。バレー部員のほとんどが監督の自宅兼寮で生活をし、バレー以外でも精神力の統率を図っているほど、高校生活3年間は修行の場となっている。
そんな中、一人「岡谷工」の中へ飛び込んだだけに、自分の力を過小評価していた越川。しかし、チーム内の誰もがこの大型新人のもつ力を必要とし、惜しみないアドバイスを与えていた。越川は、その期待にこたえるように次々とスパイク、ジャンプサーブを決めていったのだ。
見事インターハイ初優勝を飾り、秋に行われた「国民体育大会」でもチームは初優勝。当初の目標どおり「春の大会三連覇、春、夏、秋の大会三冠」という偉業を達成した。
そして今年越川は、02年6月のアジア太平洋カップに太古カントク率いる全日本に高校生ながら選ばれる。大会10連覇を達成したこの大会で、スパイク決定率3位、サーブ効果率では1位に輝くという鮮烈なデビューを飾った。しかしその反面、チームは全国タイトルからは遠ざかり、「チーム復活」の試練が続いた。先輩たちの背中を見ながら・・・と邁進してきた大型新人は、いつしかエースナンバー「１」を背負い、主将としてチームの大黒柱となる。
高校生活最後となる春の全国選抜、夏のインターハイでは、好選手の集まった東北高校から1セットも奪えず完敗。「三上（東北高）の速さについていけなかった。常に完璧なバレーができるように頑張りたいです」
インターハイ直後からは一人、アジア大会全日本代表として2ヶ月近くチームを離れ�好蝓璽亜β膤慇犬箸い辰森發ぅ譽戰襪涼罎農鎖静�にも一回りも成長して日本に戻ってきた越川は、最後の「復活」にむけて国体開催地「高知県」へと挑んだ。
そして10月、岡谷工業は「王座奪回」を果たす。この勝利は、越川以外の選手が「越川一人だけのチームではない」ということを証明しているかのような気迫に満ちていた。高校生活最後に再び王者に返り咲いた越川。高校生活の中で越川は、すでに「バレー界のエース」として一躍脚光をあび、実業団からの誘いも出始めている。ただ、そんな周囲の盛り上がりの中にあっても、岡谷工バレーの代名詞「全員バレー」の大切さを歩んできた越川自身は誰よりも感じている。この「原石」は自ら、そして周囲からも着々と磨きをかけられていく。完成したら、いったいどれほどのダイヤモンドになるのだろうか。
来年4月には高校を卒業し、さらに広い世界へとすすんで行く。硬直している日本バレー界に、どんな光をさしこんでくれるのか今から楽しみだ。
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