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【やばいぞ日本】第4部 忘れてしまったもの(3)ママ役はいや ペット役に

2007.11.8 03:32
このニュースのトピックスやばいぞ日本

 保育園を視察した教育委員会の指導主事(46)は、遊戯室の不思議な光景が気になった。

 ままごと遊びをしていた4−5歳の女の子の1人が、床に寝そべって「ミャー、ミャー」と声を出していた。保育士に尋ねると「あれは猫の役。おままごとで最近、人気なのはかわいがられるペット役。母親役は人気がない」のだという。

 児童精神科医で川崎医療福祉大教授の佐々木正美氏(72)も、各地の保育士らから同様の話を聞く機会が多くなった。「昔は、お母さん役は奪い合いだった。今は、手をあげてやってくれる子はほとんどいない」という。

 「○○ちゃん、今日だけでいいからお母さん役やって」と保育士が子供に頼み、子供はしぶしぶ引き受けても、他の子に「あれして、これして」と指示や命令ばかりしている。

 「お母さんが死んだことにしよう」「入院したことにしよう」と、母親役なしでおままごとをする子供もいる。男の子も父親役はうまくない。ボーッと立っているだけで演じ方が分からない子がいる。「どちらも子供にとって魅力的な役に思えないのでしょう」と佐々木氏。

 口に出さなくても「お母さんのようになりたい」と慕った、かつての親子の関係と隔たる話をよく聞く。

 「真っ当な日本人の育て方」(新潮選書)の著書もある小児科医、田下昌明氏(70)は「かつては『おふくろには、かなわないな』と思ったものだが、それがない」と話す。

 田下氏も小児科にくる親子で気になることがある。「診察で子供の服を脱がすとき、『脱がせていい』と母親が子供にお願いするように聞く。自分の子供に指示、命令ができない。常にお願い」なのだという。

 首都圏で開業する歯科医(44)は、子供が騒ぐとすぐに怒鳴る親や、あめ玉などを安易に与える親が心配だと語る。 「泣いて騒ぐ幼児の口に甘いものを入れるとおとなしくなる。その場だけ動きがとまればいいと思っているようだ」。

 どうやら自信をもって子供をしかれないのである。親が親に成り切っていない。

 その歯科医は、子供の歯をみると、親子関係が分かるという。コミュニケーションがとれている家庭の子供は虫歯が少ない。「子供は少しぐらい歯が痛くても言わない。食事のとき、変な顔をしていたら口の中をみてあげないといけない。子供の顔をあまりみていない親が多いのではないか」と話す。

 最近は、ほとんど虫歯がない子か、虫歯だらけで「全滅」という子に二分されるという。健康志向で子供たちの食生活にも気をつかう若い親がいる一方、この歯科医の印象では1割程度が「全滅」組だ。

 赤ちゃんのときから、しっかり抱いて育てると互いの愛情がはぐくまれるものだ。佐々木教授は「しっかり抱いているのはペットだ。心配なことです」と話す。愛し方も、しかり方も知らない親が増えているのは間違いない。

                   ◇

 ■個人重視が招く母親の孤立

 人前で子供を罵倒(ばとう)する、自分の子供が転んでも助けようとしない親がいる。赤ちゃんにおっぱいをやりながらメールをする親もいるという。何かおかしい、と思っている人は多いだろう。

 川崎医療福祉大教授の佐々木正美氏は、授乳しながらメールする親の話について、「赤ちゃんは生後1−2カ月で母親がほほえみかけると、笑みを返す。そうした大切な瞬間にわき見をしているようでは…。赤ちゃんの感情をどんどん育ててあげる側が力を失っているよう」と話す。

 わが子に注意しない親が多い傾向も民間の調査に表れた。財団法人「日本青少年研究所」が今春公表した調査では、日本の小学生は中国、韓国に比べ、家庭で注意される機会が少ないという結果が出て話題になった。特に親から「先生の言うことをよく聞きなさい」「親の言うことをよく聞きなさい」と言われる割合が低かった。

 政府の教育再生会議が緊急提言しようとした「親学」に対して異論がでたことも記憶に新しい。

 親学は、若い親たちに子育ての知恵や楽しさを学んでもらい、家庭教育の重要性を自覚してもらおうというものだった。

 これに対し「母乳による子育て」などの提言項目に「家庭教育のマニュアル化」「国が子育ての仕方を押しつけるのか」などの批判が起きた。

 家庭科などの教科書でも、父親や母親の役割、家族の絆(きずな)の大切さを記述するより、独身者の増加や夫婦別姓といった個人の自立や家族の多様化を強調する傾向が強い。

 「祖母は孫を家族と考えていても、孫は祖母を家族と考えない場合もあるだろう。犬や猫のペットを大切な家族の一員と考える人もある」という記述が国会で取り上げられ、疑問視されたケースもある。

 これでは、子供をしっかり抱いて子守歌を聞かせたり、早寝早起きを守らせるなど昔からの子育ては十分伝わらない。

 不登校などの教育相談にあたる民間の研究所の女性は、「親から子、さらにその子供へ、直接、手をとって教える機会が少ない」と語る。例えば、料理のだしの取り方などにしても知らない人が多いという。世代間の伝達が薄れている。

 明星大教授の高橋史朗氏によると、親学は、カナダや米国・ミズーリ州など海外で積極的だ。そこでは国や地域をあげた取り組みがあり、親同士が学び合うなど教育プログラムがつくられ、日本国内の自治体でも参考にされている。

 自治体などが親学講座や子育て講座を開催するケースが増え、約2万の講座が開催されている。各地の講座は盛況だ。子育てに悩んだり、子育てについて知りたいというニーズは高い。

 佐々木教授は「主役はお母さんだが、皆がそれを支えていかないといけない」と孤立しがちな親への支援の大切さを指摘する。同時に「個を大切にすることはうっかりすると孤立化した生き方と誤解される。周囲との人間関係が家族の人間関係を深める」と話す。

 核家族化の中で母親が疲れている様子がみえる。児童虐待などの事件の背景に親の孤立化を指摘する意見もある。個人重視が誤解され、マイナス面を生んでいないか。佐々木教授の指摘は示唆に富む。(沢辺隆雄)

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