日本のお産が危ない <5>
加藤さん安全で快適なお産のために 〜助産師の立場から〜
社団法人日本助産師会 専務理事 加藤尚美
人類の歴史と共に歩む助産師
戦後日本のお産は、自宅分娩から施設分娩へと大きく変化した。そのターニングポイントは、敗戦後のGHQの指導により、お産が医療の管理下に置かれたことである。
明治時代から昭和三十年代までに、開業助産師は、自宅分娩や助産所での正常な出産をサポートし、年間百五十万―二百万人が助産師の手によって産まれている。また、助産師は地域の重鎮として位置づけられていた。昭和二十六年には七万七千人就業していた助産師が今は約二万四千人である。このような経過の中で、助産師は、人類の歴史と共に新しい生命を生み育てる女性を支え、ケアを提供し、新しい知識・技術を取り込みながら、誇りを持ってその職責を果たしてきた。
諸外国においても、何世紀にもわたって助産師は合法的に確立された医療専門職であり続け、ヨーロッパの多くの国で正常分娩は助産師が取り扱っている。WHO「五十九か条お産のケア実践ガイド」と助産師
WHOの「五十九か条お産のケア実践ガイド」が翻訳されて久しい。本書では、正常分娩のケアの新しいスタンダードが示された。WHOでは、正常分娩を「自然に陣痛が始まり、その時点で低リスク妊娠とされ、陣痛期から児が誕生するまでの出産の全過程で低リスク状態が続く。児は妊娠週数満三十七週―四十二週の間に頭位で自発的に生まれる。産後、母子共によい状態にある」と定義している。
また、この正常分娩のケアの提供者は、異常の発見の能力を備えた助産師が最も適しており、医師の監督も必要としないと述べている。助産師は異常を発見した場合、医師と連携をとり安全な妊産婦の管理をしていくことが重要である。
WHOの勧告にみるように、助産師がローリスクのお産において主体的にケアを展開できるようにすることにより、医師は時間が確保でき、異常分娩に力を発揮できるのではないかと考える。医師と助産師の信頼関係を築き、助産師に正常分娩を委譲することにより、今後の産科医療を発展させ、お産の危機状態を回避したいものである。
表1 助産師の就業場所(平成16年度) 病 院 17,753 68.20% 診療所 4,680 18,00% 助産所 11,289 1.00% 表2 出生の場所(平成16年度) 病 院 521,998 53.70% 診療所 521,998 46.60% 助産所 11,289 1.00% 潜在助産師の活用と助産師教育の拡充により数の確保を
助産師の不足や勤務先の偏在に伴い、さまざまな問題が起きている。表1・2のように、助産師の多くは病院に勤務している。診療所での出産が全出生の四六%を占めているにも関わらず、診療所に勤務している助産師は一八%に過ぎない。
日本助産師会では、就業者数とほぼ同数に及ぶ、現在就業してない潜在助産師を掘り起こし、就業を促進するために、平成十六年度から調査を行い、十七年度には潜在助産師の研修会を実施し既に数名が勤務を開始している。
また大学における課程選択制の助産師教育では、一校当たり七名程度の卒業者で、数が間に合わない。今後は大学専攻科等に移行することにより、数を確保していく必要がある。満足度の高い助産所でのお産
WHOは「女性が自分にとって最も安心できるところでお産をすべき」との見解を示している。
開業助産師によるお産は、十七年度には一万六百七十六人で全体の一%に過ぎない。助産所でお産をした女性へのアンケート調査では、お産の満足度が他施設に比べ有意に高い。日本助産師会では平成十六年に「助産所業務ガイドライン」を示し、助産師が本業務の基準を守り助産所において安全で安心な分娩を確保することに努めている。安心してお産のできる環境づくりを目指して
リスクの高い妊娠を選り分ける能力のある助産師が、ローリスクの妊婦の健診、お産に関わり、ハイリスクの場合は、産科医と連携し、安全性を確保する仕組みを作る必要がある。
さらに、・周産期救急ネットワークの充実と助産所からの緊急時の受け入れや紹介システムの確立、・産科医とともに助産師を確保し、お産の快適性と安全性の調和をはかる、・多彩なニーズに対応できるオープンシステムや院内助産所の推進、・母子保健資源の連携と拡充、・女性に対する支援の拡充などが求められる。
助産師は、自らの助産実践能力を高め、自律し、業務範囲の拡大に関する検討を行い、後方支援をいただく産科医との連携の中で、女性に期待されるお産への支援をしていきたい。
Copyright(C), 社団法人 日本家族計画協会, 2001