山陽道屈指の大社として栄えた吉備津神社(岡山市)といえば、釜の鳴動で吉凶を占った鳴釜神事を連想する人も多かろう。上田秋成の「雨月物語」にも取り上げられ、名高い。
豊臣秀吉の参謀格だった戦国武将・黒田官兵衛も、この神事に祈願していたことを知った。岡山県立博物館で十八日まで開催中の特別展「吉備津神社」に、「釜が動じた」ことを感謝した書状が展示されている。
豪壮優美な大屋根で知られる同神社の本殿・拝殿は、半世紀ぶりに檜皮(ひわだ)ぶき屋根のふき替え作業が進行中だ。特別展はこの保存修理に合わせて企画された。神社の歴史やゆかりの人物にまつわる史料、貴重な宝物などが並ぶ。
会場でひときわ目をひくのが一対の「獅子狛(こま)犬」だ。本殿の内陣入り口に据えられ、ふだんは目にする機会が少ない。獅子の体に残る金は今も輝きを失わず、写実的な迫力に圧倒された。
初公開の史料も多い。江戸時代初期の作と思われる鉄弓・鉄矢は「矢立の神事」と何らかの関係があるのか。幕末の備中松山藩士・山田方谷が四歳の時に書いて奉納したという扁(へん)額。堂々たる字には驚かされる。
身近な地域の文化遺産を再認識するいい機会だろう。秘蔵の宝物を見れば胸がときめく。神鳥のはばたきを思わせる本殿・拝殿の大屋根がよみがえるのは早ければ来春とのこと。こちらも待ち遠しい。